Lisearch

2026/7/20

市民参加の結果は、どれだけ早く返ってくるべきか

長岡京市「まち活コンテスト」にみる権限移譲とフィードバックの速度

市民参加の充実度を測るとき、私たちは参加者の数や議論の深さを尺度にすることが多い。本稿では、これまであまり論じられてこなかった別の尺度を検討したい。参加の結果が、参加した本人にどれだけ早く返ってくるか、すなわちフィードバックの速度である。

素材とするのは、弊社が協働している、京都府長岡京市が令和8年度から始めた「まち活コンテスト」の市民投票である。市民活動にかかる補助金の追加交付という仕組みであるが、市民参加の制度設計として読むと、検討に値する論点を複数含んでいる。

1. 事例の概要 - 補助金の「上乗せ」を市民投票で決める

長岡京市には、市民活動団体の公益的な事業を支援する「みんなの未来をつくるまち活補助金」がある。立ち上げ3年以内の事業を対象とする「たねまくコース」(上限10万円)と、継続事業向けの「はなさくコース」(上限30万円)で構成され、採択の可否は、市民活動に精通した専門家からなる審査会が書面審査とプレゼンテーションによって判断する。令和8年度は6月20日の審査会を経て、両コース合わせて13事業が採択された。

令和8年度から加わったのが、その先の仕組みである。採択された事業のうち参加を希望するものについて、事業概要を市の市民参加型合意形成プラットフォーム「Voice NAGAOKAKYO」(弊社が提供するLiqlidを基盤とする、長岡京市のプラットフォーム)上で公開し、市民投票を実施している。

各コースで最も多くの票を集めた事業には、採択時の対象経費の10分の10を超えない範囲で5万円が追加交付される。投票とあわせて、市民は各団体に応援メッセージを送ることもできる。

注目したいのは、この制度の権限配分である。どの事業を採択するかという判断は、従来どおり専門家による審査会が担っており、市民投票が決めるのは、採択後の追加交付の行き先に限られる。既存の統制、すなわち専門家審査と公金支出の説明責任をそのまま維持したうえで、その外側に、市民の投票が公金の配分を直接に決める領域を新たに設けた制度だと整理できる。

2. IAP2のスペクトラムと照らし合わせる

市民参加の深度を測る枠組みとしては、国際市民参画協会(IAP2)の「参加のスペクトラム」がよく参照される。米国の社会学者であるアーンスタインが1969年に示した「参加のはしご」の系譜を引くもので、行政と市民の関係を、情報提供(inform)、意見聴取(consult)、関与(involve)、協働(collaborate)、権限移譲(empower)の五段階に整理する。段階が上がるほど市民の意見が意思決定に及ぼす影響は大きくなり、最上段の権限移譲では、決定そのものが市民の手に委ねられる。

この枠組みに照らすと、日本の自治体における市民参加の実務は、意見聴取の段階に厚く集積してきたといえる。意見公募手続(パブリックコメント)や審議会、アンケート、ワークショップといった手法は、いずれも「聴いたうえで、決めるのは行政」という構造を共有している。関与や協働の実践は増えているものの、決定を市民に委ねる権限移譲となると、事例は少ない。決定を委ねることには制度上も心理上も抵抗が大きく、失敗した場合に誰が責任を負うのかという問いが、検討の初期段階で先に立つためである。

ここで書き添えておくと、このスペクトラムは弊社にとっても他人事ではない。Liqlidは、この五段階を製品設計の基軸として明示的に参照しており、情報提供にはブログや通知、意見聴取にはアイデア投稿やリアクション、意見反映にはプロジェクトや投票といった機能をそれぞれ対応させている。一方で、上位二段階にあたる共同決定と権限移譲については、対応する機能を列挙するのではなく「運用方法による」と記している。プラットフォームの機能が保証できるのは中位の段階までであり、上位の段階に到達できるかどうかは、機能そのものではなく、その機能をどのような制度に接続するかという運用の設計に懸かっている。私たちはそう考えて、製品の側にもその旨を言明してきた。

まち活コンテストも、この「運用の設計」の一例として読むことができる。Voice NAGAOKAKYOの投票機能は、他の場面では意見反映の段階で使われることが多い機能であるが、ここでは追加交付の決定という制度に接続されている。市民投票に委ねられているのは採択の可否ではなく追加交付の行き先であり、金額は5万円である。権限移譲と呼ぶには小さな一歩だという見方は当然ありうるし、市がスペクトラムのような枠組みを意識してこの制度を設計したのかどうかも、筆者の知るところではない。ただ、市民の投票が公金の配分に直接つながる仕組みであることは確かであり、決定を委ねる経験と委ねられる経験を、行政と市民の双方が小さなリスクのもとで積める規模設定になっている。この点に、筆者は意義を感じている。

3. 権限移譲の効用を「フィードバックの速度」から考える

権限移譲の意義は、通常、民主的正統性や市民の主体性の涵養といった規範的な観点から論じられる。その意義を認めたうえで、本稿ではより実務的な効用に注目したい。権限移譲は、参加に対するフィードバックを構造的に速くする。

意見聴取型の参加を、参加した市民の側から時系列で追ってみるとよい。パブリックコメントに意見を提出すると、数か月後に「ご意見の概要と市の考え方」が公表される。意見が計画に反映された場合でも、計画が事業となり、事業の効果が地域に現れるのは数年先である。自分の参加が何かを変えたのかを市民が確認できるまでの期間は、しばしば年単位に及び、多くの場合、変わったのかどうかすら判然としないまま終わる。

まち活コンテストでは、この期間が数週間で完結する。投票し、結果が公表され、選ばれた事業に5万円が交付され、その事業は年度内に市内で実施される。自分の一票が何を変えたのかを、具体的な金額と事業名によって確認することができる。

この違いが持つ意味は、現代の情報環境を考え合わせると、いっそう大きくなる。数十秒の動画が標準的なコンテンツとなり、メッセージへの返信は数時間でも遅いと受け取られる環境のなかで、多くの人が日々を過ごしている。この速度感覚そのものには警鐘を鳴らしておくべきだろう。政策には熟慮の時間が必要であり、速さを民主主義の尺度にすれば熟議は痩せ細る。しかし同時に、この速度感覚のなかで育った世代がすでに社会の相当部分を占めているという事実は、直視する必要がある。意見の提出から応答まで数か月、効果の確認まで数年という行政の時間感覚は、この世代にとって丁寧さの表れではなく、端的に応答の不在として知覚される。

ここで区別すべきは、決定に要する時間と、応答に要する時間である。熟慮のために決定が遅くなることには正当性がある。しかし、参加した市民への応答、つまり「あなたの参加は効果があった」という確認可能な帰結の提示まで遅くてよい理由は、本来どこにもない。フィードバックの遅さは熟議の証ではなく、多くの場合、制度がそのように設計されていないことの帰結にすぎない。そして、応答のない参加の経験は参加への不信を蓄積させ、応答の速い参加の経験は「参加には意味がある」という学習を成立させる。この学習が、次のより深い参加を支える信頼の基盤になる。まち活コンテストの規模でこの循環が直ちに回り始めるわけではないにせよ、設計の方向としては、この循環を狙ったものと読むことができる。

4. 参加は計画策定段階だけのものではない

まち活コンテストからは、もう一つの論点を引き出すことができる。参加が置かれている「段階」の問題である。

日本で市民参加が制度化されているのは、圧倒的に計画策定の段階である。総合計画や個別計画の策定、条例案の検討にあたって実施される意見公募手続も審議会も、基本的には「これから決めること」への参加として設計されている。しかし政策の過程には、立案の後に決定があり、実施があり、評価がある。まち活コンテストの市民投票は、採択決定の後、事業実施の前という、従来ほとんど参加の接点が置かれてこなかった段階に位置している。市民が判断するのは「まちとして何をすべきか」ではなく、すでに動き出すことが決まった具体的な事業のうち「どれを後押しするか」である。

この段階の参加は、計画策定段階の参加と性質が異なる。対象が具体的であり、判断の帰結が早く現れる。参加に要する負担も、審議会の委員を引き受けることに比べればはるかに小さい。一方で団体の側から見れば、票と応援メッセージは活動の励みであると同時に、自らの事業が地域にどう受け止められているかを知る材料になる。行政にとっても、市民の関心がどの分野に向いているかを示す情報が得られる。計画策定段階の参加とは役割が異なるのであって、どちらかがどちらかを代替する関係にはない。政策サイクルのどの段階に、どのような深さと速さの参加を配置するか。この配置の検討こそが、参加の制度設計の本体であるはずである。

5. 留保と展望

留保も述べておきたい。投票である以上、知名度の高い団体に有利に働く可能性はあるし、投票参加者の規模や属性に偏りがあれば、結果の正統性に影響しうる。また、追加交付という枠組みは、裏を返せば、本体の意思決定がなお行政と専門家の側にあることを意味している。この制度が権限移譲の入口として機能していくのか、入口にとどまり続けるのかは、今後の運用と検証を待つ必要がある。

それでも、既存の審査の仕組みを維持したまま、その外側に市民の直接決定が働く領域を小さく設け、参加から帰結までの期間を数週間に縮めたこの設計は、権限移譲を一挙の決断としてではなく段階的な制度の調整として進めるための、一つの型を示している。市民参加の深化を検討する自治体にとって、参照する価値のある事例だと考えている。

(文責:株式会社Liquitous 代表取締役CEO 栗本 拓幸)

注:本稿は、公開情報に基づき筆者の所感を示すものであり、本稿内で取り上げた自治体を代表する意見ではありません。

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この記事の執筆者

栗本 拓幸

代表取締役CEO

2020年にLiquitousを設立、現在は国内外100以上の官公庁・自治体等と連携。市民と行政が共創するプロセスの構想・企画設計・実施を強みとし、一貫して現場マネジメントに従事。 総務省 経営財務マネジメント強化事業アドバイザー、大阪府 合意形成研究会構成員、ハーバード大・デジタル市民参画 MooC アドバイザー