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2026/8/2

講演記録:「過信と諦め、二つの『デジタル民主主義』幻想 ― 国内外100自治体の現場からの報告」

講演記録|Digital Democracy Summit 2026(2026年8月2日・慶應義塾大学三田キャンパス)

2026年8月2日、慶應義塾大学三田キャンパスで開催された「Digital Democracy Summit 2026」において、弊社代表取締役の栗本拓幸が標題の講演を行った。

本分科会は、自治体や地域の中でデジタル民主主義をどのように進めていくかを、実例を交えて扱う分科会である。本稿は当日の講演を、話し言葉を生かしながら整理・再構成した記録である。また、本日は、大阪府において、ブロードリスニング実証事業をご一緒している大阪府スマートシティ戦略部戦略企画課の松本剛志課長にもコメントをいただいた。

なお、文中の事例・数値は講演時点のものである。


1. 過信と諦め - 二つの「幻想」から話を始める

タイトルに「過信と諦め」という言葉を掲げました。午前中のセッションでもあった通り、デジタル民主主義という言葉そのものが独り歩きする、ブロードリスニングという言葉が独り歩きする、という場面が正直あるというのは、現場に入っている立場から感じているところです。一方で、それらに意味がないのか、価値がないのかといえば、そうではないと考えています。今日は、この「幻想」が実際にどう幻想なのか、現場で何が起こっているのかをお話ししたいと思います。

過信とは、何かすごいツールが入れば変わるのではないか、という話です。プラットフォームさえあれば、市民がもっと声を上げるのではないか。では本当に、ツールを入れるだけで市民の皆さんは変わるのでしょうか。諦めはその逆で、とはいえ声を集めるだけでは変わらないでしょう、政策には届かないでしょう、という感覚です。ツールに対する諦めと言うべきか、民主主義そのものに対する諦めと言うべきか分かりませんが、こうした諦めがあるのも現実です。いずれにせよ、現場を見ていると「おや」と思うところが多分にあります。今日はその話をしていきます。

2. 「民主主義」という言葉を、一度諦めた - 自己紹介に代えて

栗本拓幸と申します。26歳です。2020年2月にこの会社をつくりました。もともと慶應の学生で、日吉や三田ではなくSFCですが、出来が悪いものですからSFCを辞めて、会社はちょうど7年目に入るところです。この三田キャンパスで話をさせていただくのは、縁深いものだと感じています。総務省の地方公共団体経営・財務マネジメント強化アドバイザーとして、各地の自治体のお手伝いもしています。

今日、私が非常に嬉しいのは、このサミットが「デモクラシー」という言葉を使えていることです。会社を作った2020年、私は民主主義という言葉を使うことを一度諦めました。当時は液体民主主義や民主主義のDXと言っていたのですが、民主主義という言葉を口にした瞬間、アカデミアも自治体も、皆さんスーッと引いていくわけです。ものすごくイデオロギー的なものと捉えられて、話ができない。だからデジタル市民参加と言ってみたり、市民参画と言ってみたり、最近では市民との共創という言葉を使ってきたことを、今でもよく覚えています。この話を民主主義という言葉から語れること自体が、非常にありがたいことだと考えています。

3. シビック・プロセス・カンパニーとして - Liqlidと伴走の仕事

弊社はシビック・プロセス・カンパニーを謳っています。自治体における市民参加型プロセスの設計・デザイン・実行・評価を一気通貫でやる、ということを大事にしています。役所全体の統一的な仕組みづくりもそうですし、行政計画の策定や個別の施策・事業を市民の皆さんと一緒に進めるためのプロセスデザインもそうです。

ただ、ツールを作るだけではなかなかうまくいきません。Liqlid(リクリッド)というオンラインプラットフォームには、大きく三つの側面があります。一つ目は声を集めること。行政から市民への情報提供の場にもなり、市民が直接書き込むこともでき、参加型予算のような使い方も、SNS上から声を集めてくるブロードリスニングもできます。二つ目はデータベースです。行政はアンケート、ワークショップ、審議会、公聴会と、様々な形ですでに声を取っています。それらを統合的に取りまとめ、このツールで集めた新しい声とあわせて分析できる。三つ目が分析・可視化の基盤です。

その上で、単にツールとして導入するのではなく、今までやっていなかったこと、つまるところデモクラシー・イノベーションを現場に起こしていく。我々が自治体の皆さんと一緒にやることで、現場の職員の皆さんの中に「デモクラシー・イノベーションプレナー」を増やしていく。一回限りの参加が起こればよいのではなく、参加を継続的に繰り返すことで、参加・参画に関する文化を作っていく。行政の内側に入って新しい市民参加型の合意形成を実装し、その運用に伴走するのが我々の立ち位置です。

4. パブリックコメントの構造 - もはや変えられない段階で聴いている

では、デモクラシー・イノベーションは何を目指しているのか。地方自治体にはパブリックコメントという制度があります。行政が計画を作るときに声を聞く仕組みですが、実際に聞いているのは、作っていく過程のほぼ最後、行政内部で8割9割できてからです。役所の中の調整も終わり、場合によっては議会への説明も終わったものについて、実務的にもスケジュール的にも、もう反映できないタイミングで聞いているのが実態だと思います。ここをいくらデジタル化しても、新しい声が入っていくかというと、入っていきません。

我々の言うデモクラシー・イノベーションは、この政策形成のプロセスを、より早い段階から市民の皆さんに開いていきましょう、ということです。今までのパブコメをオンラインでやりましょうという話では全くなく、行政がまだアジェンダセッティングをしきれていない段階、検討している段階からプロセスを開く。開く対象は行政計画かもしれないし、市民協働の取り組みかもしれない。官民連携・官民共創と言われるように、公共的な営みは行政の力だけで行われるわけではないので、民間主体の取り組みについても開いていく。

その時に大事にしているのが、国際市民参加協会IAP2の「参加のスペクトラム」です。一言に参加といっても、情報提供、意見聴取、関与、協働、権限委譲の5段階がある。どれが一番良いという話ではなく、右に行くほど市民の関与できる範囲が広がり、決定への影響力が増えていく、という整理です。従前の市民参加は、左から2番目の意見聴取にとどまってきました。早い段階から聞くことに加えて、どうやってもっと右側の要素を作っていくか。これもデモクラシー・イノベーションの重要な要素だと考えています。

5. 早い段階から開く - 豊岡・鎌倉・福知山

兵庫県豊岡市では、令和7年度から弊社のプラットフォームを、市民との共創を進める基盤として全庁的にお使いいただいています。開庁時間の短縮、子どもの居場所、総合戦略といったテーマの中でも、ご紹介したいのは検討の最初期からプロセスを開いた二つの実践です。一つが宿泊税の検討に関する意見募集、もう一つが下水道使用料に関する意見募集です。宿泊税では、庁内で論点整理を進めている段階でプロセスを市民に開き、声を聞いていきました。従前なら、役所である程度方向性を出してから聞いていたはずのものです。下水道使用料は本来条例で決まるものですが、条例案になる前、審議会から値上げすべきという答申が市に出たタイミングで、堅苦しい行政資料を分かりやすくビジュアライズする機能も使いながら、「こういう答申が出ていますが、皆さんはどう考えますか」と聞きました。従来なら議会で決まる直前に条例案のパブコメをやっていたところを、はるかに早い段階から聞いている。大きな取り組みだと考えています。

神奈川県鎌倉市は令和4年度からで、今年度が5年度目です。特徴的だったのは、新しい庁舎を整備するプロポーザルの段階で使ったことです。こうしたハード整備のプロポーザルは、限られた人だけで構成された委員会で選定されてきました。そうではなく、プラットフォームで集まった市民の声をプレゼンテーション審査に活かす、という使い方をしていただきました。

京都府福知山市の事例は、デジタルを使えばいいという発想ではない、ということの例です。テーマは、どうすればより多様な市民にリーチできるか。昨年度、オンラインプラットフォームと並行して、住民基本台帳からランダムに2,000人へ通知を送る、くじ引き型の会議を年5回行いました。面白かったのは、対面側はくじ引きなので行政と接点のなかった方々が参加している一方で、年5回続けると徐々に若い方の参加が減っていく。オンライン側は、若い方の参加が継続的に多い。オンラインだけあればいいということではなく、対面も工夫しながら、それぞれを組み合わせて取り組む重要性が表れていると考えています。

6. 前提そのものへの問いが届く - 静岡県のこども意見聴取

静岡県では令和6年度から、全県的にこども・若者の意見聴取の取り組みが始まっています。背景には、令和5年4月に施行されたこども基本法があります。自治体が子どもに関する政策を検討・評価するときには、こどもの声を聞くことが義務になった。この義務をどう具体化するか、どの自治体も悩んでいました。小さな町ならワークショップで幅広く聞けるかもしれませんが、静岡県のような広域自治体では難しい。そこでオンラインプラットフォームを使っていきましょう、ということです。

印象的だったのは、令和6年度の、こども計画を作る際の意見聴取です。従来の手法は、情報をものすごく読める人、前提をある程度共有できている人が投稿する場でした。だから前提を問う投稿はあまり出てこない。ところがオンラインで参加のハードルを下げると、「なんでこれって5年計画なんですか」という、行政にとっての当たり前への問いが出てくるわけです。もちろん県として5年で終えるわけではなく、5年後には見直しをするのですが、そうした前提を今までの手法で共有できていたかというと、できていなかった。だからこそ県庁としても、プラットフォームで意見聴取をするなら前提情報をどう共有するかが強いミッションだと感じています。こうした気付きが行政の側に生まれること自体に、意味があると考えています。

7. 行政主体にかぎらない - 柏の葉スマートシティ

プラットフォームの活用は、行政主体だけではありません。千葉県柏市の柏の葉スマートシティは、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺、人口2万人ほどのエリアです。三井不動産さん、柏市さん、東京大学・千葉大学が入ったアーバンデザインセンター柏の葉(UDCK)というエリアマネジメントの民間団体が、このプラットフォームで住民の声を幅広く聞いています。過去3年ほどで21テーマくらい。公園を作るプロジェクトでは、オンラインで声を聞きながら対面のワークショップも行い、いろんな声を混ぜながら公園を作っていく、ということが現に起こっています。

8. 政令市や新たなテーマへの広がり - 京都市・名古屋市、そして公共施設マネジメント

行政主体の取り組みは、政令市にも広がっています。京都市では令和6年度・7年度、今後25年間の長期ビジョンである総合計画の策定に際して、市民参加の仕組みとしてお使いいただきました。政令市は非常に大きく、対面のワークショップだけではやりきれないためです。この取り組みから発展して、今年度からは広聴DXとして、役所がすでに集めている市民の声の分析・高度化を一緒に進めています。同様の取り組みは、名古屋市でも今年度から始まっています。

あわせて、高度経済成長期に整備した公共施設の更新は全国共通の、しかし合意形成しきれないことの多いテーマであり、こうしたプラットフォーム活用の一つの切り口になると考えています。

9. ブロードリスニングと組み合わせる - 大阪府(松本課長を交えて)

SNS投稿のクロール、いわゆるブロードリスニングと組み合わせているのが大阪府です。大阪府は昨年度スマートシティ戦略を改定し、住民参加型スマートシティを謳っています。昨年度は戦略改定のタイミングにあわせ、知事会見でも発信いただきながら、SNSにハッシュタグ付きで投稿してもいいし、プラットフォームに投稿してもいい、という形で声を集めました。今年度は、ブロードリスニングの実証事業として全庁的に展開しています。

なお、この事業をご一緒している大阪府スマートシティ戦略部戦略企画課の松本課長にコメントをいただきました。以下はその要旨です。
「都道府県は、住民に直接サービスを届けるというより市町村をサポートする役割が基本ですが、図書館や、インバウンドの外国人観光客向けのサービスなど、直接届けている取り組みもあります。今年度は、その中でも住民に直接サービスを届けている業務を中心に、20ほどの業務を対象にブロードリスニングを実施できないか検討しています。パブコメが遅すぎるのではないかというのは、公務員を20年以上やってきた個人としてもその通りだと思う一方で、SNSの世界が広がってすでに10年以上経ちます。SNSからどのような声が得られるのか、それが我々のこれまで把握してきた声と同じなのか、違うのか。栗本さんの知見と、地元の大阪公立大学の社会学の先生(川野 英二 教授)にもご協力いただき、実証として検証したうえで、価値があれば実装につなげたいと考えています」(松本氏)

10. 遅くてよいのは決定であって、応答ではない - 長岡京市のまち活コンテスト

私の問題意識は、遅くてよいのは決定そのものであって、フィードバックの速さではない、ということです。

京都府長岡京市では、令和6年度から「Voice NAGAOKAKYO」という名称でお使いいただいています。駅前の再整備、散策路のリニューアル、図書館・公民館の一体的なリノベーションなど様々なテーマがありますが、今年度特に進めているのが「まち活コンテスト」です。行政が市民活動団体に補助金を出す、その決める過程に市民に入ってもらう。すでに採択している事業のうち、どれに追加交付するかを市民の投票で決める取り組みです。意思決定そのものに市民が入るという意味で、先ほどのIAP2のスペクトラムの一番右、権限委譲の側に踏み込んだ大きな取り組みだと考えています。

スピードの観点でも重要です。パブコメは返答が来るまでにも時間がかかりますし、計画に書かれたからといって、それが実生活に反映されるまでにはさらに時間がかかる。この取り組みなら、参加してから実際の波及が見えるまでが非常に短い。すべてこうすべきとまでは申しませんが、こういう手法も入れていかないと、市民の皆さんからすると「結局、参加する意味あるんだっけ」となってしまいます。市民協働の取り組みや権限委譲の側に、プラットフォームの活用を広げていくことが大事だと考えています。

11. ソフトインフラとして輸出する - インドネシアでの実践

こうした営みを日本発で他の国々に広げられないか、というのが私の基本的な思いです。戦後数十年にわたり、我が国はODAを通じて道路、鉄道、発電、上下水道といったハードインフラを輸出し、それが我が国のプレゼンスの礎になってきました。これからは、民主主義の実践知をソフトインフラとして輸出できるのではないか。

現に昨年度はインドネシアで、外務省の日本NGO連携無償資金協力に採択いただき、行政の事業を市民の参加で評価する「Program Review」を行いました。中央政府の省庁の事業と、ジャワ島中部のペカロンガン市(人口30万人ほど)の事業が対象です。事前にオンラインで声を集め、対面の会議でその声を見ながらレビューし、自己評価を再びオンラインプラットフォームで行う、という流れです。

東南アジアでこうした取り組みがどう受け止められるのか、気になる方も多いと思いますが、非常に相性が良いと考えています。特にインドネシアでは、予算や都市計画を決める際にムスレンバンという市民参加プロセスを行うことが国の法律で定められています。これまで対面だけでやってきたこのプロセスをどうデジタル化するか、かなり苦慮されている。だからこそ相性が良く、インドネシアでも、それ以外のアジアの国々でも、取り組みが広がりつつあります。

12. 代表制民主主義との関係 - 議会と、政治家のリーダーシップ

こうした取り組みを進める中で、私がいつも一番気にしているのは、代表制民主主義とどう組み合わせるのかという話です。

一人一台の端末があれば直接民主主義ができるのではないか、と言われた時代もありました。本当にそういう時代が来るのでしょうか。私の立場でこう申し上げると意外に思われるかもしれませんが、私自身は、代表制民主主義は代表制民主主義で大事だと考えています。

現に、地方議会とオンラインプラットフォームは、うまく融合し始めています。プラットフォーム自体は行政のものとして入れているのに、そこに集まってきている声を、議員の側がうまく参照していく。「オンラインプラットフォームでこんな声がありました、こんな傾向がありました、こんな論点がありました、これについてどうですか」と、自ずからリファレンスされるケースが広がっています。

そして何より、参加型のプロセスを作っていくときに大事なのは、政治家のリーダーシップです。そもそも開く意思がなければ、声を聞こうということにはなりません。そして幅広く声を聞いたうえで、最後は政治的なリーダーとして意思決定をする、という意思がなければ、やはり声を聞こうとはならないと思うのです。このプラットフォームは直接民主主義を謳っているように見えて、実態としては代表制民主主義の意味を問うている。そうした側面が大きいと考えています。

13. 数字で見る - 自社の調査研究から

我々は様々な形で独自の調査研究をしています。今進めている研究では、こうしたプラットフォームの導入によって30代から50代の参加が確実に増えることが、どの団体を統合してみても出てきています。あわせて、投稿全体の約半数は、役所が開いていない時間帯や土日です。役所としては拾いきれなかった声を取れている、ということだと考えています。曜日で見るとかなり地域性が出て、特にベッドタウン型の自治体では平日の投稿が多いことが顕著です。参加という営みがどちらかというとウィークデーのものになっていて、休みの日はあまり触れない、というケースが多いと認識しています。

また、プラットフォームや市民参加・市民共創の取り組みを通じて自治体職員の意識がどう変わったかを定量的に評価する取り組みを、ヘルシンキ大学と一緒に進めています。彼らの12の指標に基づいて、職員の参加に関する準備度を評価するものです。交付金等を使ってプラットフォームを導入した自治体では、IAP2の指標を使って「今年度どこまでできたか、意見聴取だけで終わっていないか」をセルフレビューする仕組みを入れているケースもあります。

14. 技術は中立ではない - 権利ベースの要件定義

せっかくの場なので、技術との向き合い方について、悩んでいる部分もお話しします。この会社を作ろうと思った2018年頃、デジタル民主主義をスタートアップとしてやっていく方法は本当にありませんでした。もともとNPOもやっていた人間として、いろいろ悩みながら株式会社という形を選びました。だからこそ、私たちは本当に中立と言えるのだろうか、という問題意識は常に持っています。

例えば、子ども意見聴取の仕組みとしてプラットフォームを入れたい自治体さんから、「子どもたちの生の声がそのまま見えるのは不安なので、AIで要約して載せられませんか」という依頼をいただいたことがあります。技術的な開発としては、すぐできるわけです。やるべきかどうかを考える軸がなければ、「いいですね、やりましょう」と簡単にやってしまう。本当にそれでいいのか。我々は権利ベースの要件定義と呼んでいますが、そもそもこの機能は何のためにあるのかを考えながら取り組むことが大事だと認識しています。

実は今、参加型のプラットフォームは、中国をはじめとする権威主義的な国家にも存在します。一見、我々のプラットフォームと同じように、ものすごくシュッとしたUIをしているのだけれども、民主主義的な価値観で運営されているとは限らず、権威主義を補完する装置として使われている国もあります。つまるところ、かっこいいUIだから、オープンソースだから、ということは中立性を担保しません。だからこそ技術の設計段階で、これは何のためにあるのか、何が目的なのかをブレイクダウンしながら要件定義をしていくことが極めて大事です。

歴史に学ぶ必要もあると考えています。戦前、日本が満洲に出ていったとき、当地では、当時としてはものすごく洗練されたデザインがよく使われていました。それが何のために使われていたのかは、しっかりと思い起こす必要があります。プラットフォームの機能一つ、デザイン一つをとってみても、その奥底には多くの価値観や信念があり、場合によっては特定の政治的な目的を持った装置になり得る。ここは常に理解しながら取り組んでいます。あわせて、アクセシビリティにも毎月レポートを出しながら向き合い、改善を続けています。

15. 制度の次のステップ - 地方自治法第1条に立ち戻る

最後に申し上げたいのは、そろそろ技術論の次の展開を目指しませんか、ということです。私がよく振り返るのは憲法第12条です。この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。この不断の努力とは何なのかを、常に考えなければいけないと思っています。

そして、自治体の皆さんと仕事をしている立場から憲法第92条を経て地方自治法を読むと、第1条には「地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保」と書いてあります。行政のデジタル化、行政DXと、能率性を上げる取り組みは様々行われてきました。では前段の「民主的にして」の部分に、我々はどこまで取り組めてきたのでしょうか。

実は1994年の地方制度調査会の答申には、行政改革は住民の理解と協力に支えられて行われるべきであり、それが地方自治とデモクラシーの活性化に大いに資するように、と書かれています。これをもう一回できませんか、というのが私の提案です。

その時には、地方自治法第74条の直接請求を変えて、オンラインプラットフォームを使えるようにすることも一つの手かもしれません。イングランドのガニング原則のように、適切な協議を経なければ行政決定が認められないという原則や、参加する権利を法定化する動きも参考になります。参加型予算のように、市民から集めた声にきちんと予算措置をしていくことも大事です。

国のレベルでは、参議院の行政監視委員会調査室が各自治体から出てくる陳情の取りまとめを担っており、その発展形としてデジタルプラットフォームを使うこともあり得ると考えています。

観点は変わりますが、一つ一つの自治体で導入するにはハードルが高いので、共同調達のモデルを作っていくことも大事です。我々は静岡県で取り組んでいますし、スコットランドにも似た形があります。

16. 会場からの問いに応えて

講演の後半では、会場の皆さんからいただいた質問・コメントを、共感数の多い順にいくつか取り上げました。

最も共感を集めたのは、「行政の市民の声の取り上げ方を見ると、絶望を感じます」というコメントです。正直、私もものすごく感じます。うまくない自治体の方が圧倒的に多いし、本当に今まで声を聞いてこなかったんだろうな、という自治体も多くあります。ただ、そこで「この自治体はどうしようもない」となっていても仕方がないので、現場で根気強く、この声にはこういう意味がありますよ、数の大小だけでなく幅を見ることが大事ですよ、集めるだけでなくフィードバックすることが大事ですよ、と懇切丁寧に一緒に入っていく。そうしないと変わっていかないと思っています。だからこそ、ツールを作るだけではなく、一緒にやるということを大事にしています。

「プラットフォームでの参加を好まない層のカバレッジをどうするか」も大事なテーマです。この仕組みだけではなく、他の手法も含めて様々な方法で声を集めることが大事です。ただ同時に、分析側の効率を上げないと、行政職員の皆さんが「そんなに面倒くさいなら声を集めなくていい」となってしまう。効率性の担保も必要だと考えています。

「バイアスを避けるには無作為抽出がよいのではないか」。とても大事です。ただ、くじ引きにすればうまくいくかというと、そうでもありません。行政のアンケートは、実はすでに多くが無作為抽出で行われています。それでもなかなか集まらないし、長大な紙のアンケートには若い世代は回答しない、ということが起こっています。くじ引きを入れるのであれば、その時に何を送るのか、どう工夫するのかも一緒に考える必要があります。

最後は「市民は行政に意見を言う機会がある、というところから教えるべきではないか」というコメントです。本当にその通りだと思います。私はもともと、2015年の公職選挙法改正、選挙権年齢を18歳に引き下げる動きと、その後の主権者教育の流れを追っていた人間です。当時言われていたのは、選挙のための主権者教育ではなく、市民性を育てるための教育が大事だ、ということでした。子どもの意見聴取にしても、多くの自治体は「法律で決まっているから聞く」のであって、市民だから聞いている、市民と対話しているという感覚はまだ薄い。この取り組みは実は市民自治の話であり、民主主義の話と地続きなのだ、ということを自治体の皆さんとどう共有できるか。ここも大きな問題意識として持っています。

17. むすびに

よく、民主主義は静かに縮小している、と言われます。それは現状への批判的な文脈かもしれません。ただ、同時に申し上げられるのは、劇的には進まなくても、より良くできる、ということです。

ぜひこの場にいらっしゃる皆さんと一緒に、民主主義をより良くしていきたいと考えています。コラボレーションを考えたい方は、お気軽にご連絡ください。


本日のグラフィックレコーディング

※弊社シニア・リサーチャー 石本玲子 によるもの。

(本稿は当日の講演をもとに、読みやすさの観点から発言を整理・再構成したものです。)

Author

この記事の執筆者

栗本 拓幸

代表取締役CEO

2020年にLiquitousを設立、現在は国内外100以上の官公庁・自治体等と連携。市民と行政が共創するプロセスの構想・企画設計・実施を強みとし、一貫して現場マネジメントに従事。 総務省 経営財務マネジメント強化事業アドバイザー、大阪府 合意形成研究会構成員、ハーバード大・デジタル市民参画 MooC アドバイザー