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政策企画部門

栗本拓幸

2021/05/17

なぜ今『民主主義のDX』なのか:あたらしい政府には新しい民主主義の回路を

Liqlid

Liquitous

スーパーシティ構想

住民参画

民主主義のDX

新型コロナ感染症が、私たちに突きつけたもの

新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、私たちの生活に甚大な影響を与え続けている。緊急事態宣言をはじめとする政府の諸施策、あるいはオリパラの開催など、様々な情勢が日々揺れ動き、未だ「長い夜」は明ける気配を見せない。

我が国においては長い間、国民の政治的関心の低下が課題として提起されてきた。確かに、国民が政治に関心を持つ必要性に迫られない「平和で繁栄した」社会は一面的には豊かであるかもしれないが、我が国の民主主義が国民主権に基づくものである以上、国民が主権者として政治に自ずから参画することは、極めて望ましい姿であると言えるだろう。

国民と政治の乖離は、『機能しない政治』を生み出す一因となる。乖離ゆえに、政治は民心の離反を恐れ、過度に(特に有事においては重要であるというべき)政治的決断を躊躇させる。また、国民の政治への信頼はさらに毀損される。国民の政治参画がなかりせば、今般のコロナ禍で立ち現れているように、憲法12条で「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と謳われている状況とは程遠い、あまりにも『孤立した政治』の出現を傍観せざるを得ないのである。故に、平時・有事を問わず、国民の政治参画を推進することは、いうまでもなく重要だと認識している。国民と政治の間の密なコミュニケーションは欠かすことができない。

また、コロナ禍は、官民が『共創』し、我が国の公共の持続性を保つ重要性と必然性を見せつけたとも指摘できるだろう。民間事業者によるワクチン接種の予約システムの提供や、昨年来の各自治体における感染状況ダッシュボードに代表されるような、市民の「一肌脱ぐ」参画によって、我が国のコロナ禍という有事への対応が成り立っている。

ここ十数年来、官と民との関係と言うと、民営化に代表されるような新自由主義的アプローチが殊更に注目されてきた。筆者自身は、新自由主義的アプローチについて、その全てを否定するわけではないが、官と民との関係性は、必ずしも公的部門の民営化やPPP/PFIのみではない。そして何より、公共は官の独占物ではない。民と官が手を取り合い、時にはその間を「溶かし」ながら、ともに公共の担い手として役割を果たすアプローチによって、これからの時代における公共が再構築されるものと考えている。

小さくて大きい「あたらしい政府」のかたちを目指せ

比喩的表現として「小さな政府」か「大きな政府」のどちらがより好ましいか、という議論は、これまでの長い間、我が国をはじめとする先進民主主義諸国において、重要な政治的テーマであり続けている。「統治機構の適切なサイズは如何なるものか」という議論は、即ち社会保障や地方自治に直接影響を与えるからこそ、肝要であることは言うまでもない。

他方、「小さい」もしくは「大きい」という二元論に限界があることも明らかであろう。特に、コロナ禍のような有事に際しては、大きな政府(的機能)が求められる一方で、平時から大きな政府(的機能)を維持することは、特に機能や効率性の面から、場合によってはコストの面から現実的ではない。これまで筆者は、『Government as a Service』をコンセプトに、「小さくて大きな政府」を目指すことを提唱してきた。このコンセプトにおいて、テクノロジーは、政府に求められる機能を状況に応じて「伸び縮み」させることを目的にプラットフォームの役割を果たすこと、そして(本質的には、国民は主権者であり、純粋なユーザーではないが)主権者たる国民のユーザビリティを向上させること、そして、国民から行政に対して、強力なフィードバックを提供すること等を実現する、有効な切り札となる。

コロナ禍を通して、巷ではデジタル化やデジタルトランスフォーメーションが喧伝されているが、テクノロジーは多様性を包摂しつつ、個別最適化されたサービスを提供することができる可能性がある。今、求められていることは、小さな政府・大きな政府の二元論から脱却し、テクノロジーを実装することで、サービスの原義に照らした『Government as a Service:真に国民にServe(奉仕/貢献)する行政(機構と施策)』を実現することではないか。この『Government(as a Service)』と民間が、国民からの強力なフィードバックを基に、政府のプラットフォーム的機能を活用して共創することは、我が国の公共の再構築と持続的発展に資するものである。換言すれば、テクノロジーを用いてGovernment as a Serviceを実現することは、ゆたかな公共を再構築する重要な礎石になると筆者は考えている。

参考)
政治分野における液体民主主義の構想ー二回路制デモクラシーとコモンズ(Lisearch Journal, 2020年4月13日)
Government as a Service( #GaaS )を目指せ:これからの統治機構とは(外部リンク:栗本拓幸ホームページ, 2019年8月19日)

スーパーシティを『新しいガバナンスのテストベッド』に

2020年通常国会で国家戦略特区法が改正され、いわゆるスーパーシティ構想が我が国で開始されることとなった。スーパーシティは、地域におけるデータ連携基盤の設置及び規制緩和によって、従来のまちづくりよりもより大胆かつ先進的な施策を実現する、いわばまちづくりのテストベッドである。

2015年ごろから、国内ではテクノロジーを用いたまちづくり「スマートシティ」の取り組みが多く展開されてきた。このスマートシティの取り組みを発展させ、国家戦略特区を活用することで規制緩和と併せて先進的なまちづくりを行うスーパーシティ構想には、昨年来、さまざまな自治体が関心を示し、本年2021年5月には、計31自治体(共同提案等含む)が、スーパーシティへの手あげを行った。スーパーシティの「実装」は一般的に、街区を新たに整備(新規開発)して行うグリーンフィールド型、そして既存の街区を用いて行う(既存都市開発)ブラウンフィールド型の2つが存在するが、いずれにせよ、従来のまちづくりとは異なる速度・論理で先進的な施策が展開される地区が、国内に出現することとなる。

また、神奈川県藤沢市のように、スーパーシティへの手あげを検討していたものの、最終的にスーパーシティ構想への手あげを見送った自治体も存在する。こうした自治体においても、テクノロジーを活用した、スマートシティの取り組みを進めているケースは多い。つまり、最終的にスーパーシティ構想に手あげした自治体はいうまでもなく、それ以外の自治体においても、まちづくりにテクノロジーの実装が加速している現状がある。

こうした状況を踏まえて筆者は、スマートシティ、特にスーパーシティを新しいガバナンス(地方自治)のテストベッドとすることを改めて提案したい。国外におけるスマートシティ施策に対しては、テクノロジーの専制的な活用による『監視国家』化、あるいは民間事業者による『独善的な開発』などといった批判も根強い。だからこそ、既存の仕組みではない新たな民主主義の回路を生み出し、行政が進めるスマートシティ・スーパーシティ施策に対して、強力なフィードバックを行うことが重要ではなかろうか。

昨年、スーパーシティ構想を巡る国家戦略特区法改正の国会審議においては、国からスーパーシティ構想の認定を受けるにあたって、法律の要件上必要とされる『住民合意を証する書面』が何たるか、法律上明確に定義されないという課題が提起された。そして何より、前述のように、スマートシティやスーパーシティが、従来とは異なる速度・論理でまちづくりの施策が展開される以上、数年に1度という既存の選挙制度では、民意の把握・反映が十分になされない可能性は極めて高い。特にスーパーシティの取り組みについては、その導入・導入後の双方で、住民の民意把握や合意形成に一定の課題があると指摘できるだろう。

確かに、これまで市民が直接的に政治・行政の合意形成に関わる機会は、もっぱら選挙や住民投票に限られていた。ただ、テクノロジーを活用すれば、住民が恒常的に行政施策に関わり、またオンラインで熟議や合意形成に携わるシステムを構築することは容易だ。国家戦略特区における規制緩和に基づき、テクノロジーを前提としたまちづくりを行うスーパーシティとの相性が良いことも想像に難くない。

スーパーシティで新しい民主主義の回路を実装・検証することは、前段で述べた『Government as a Service』に欠かすことができない、国民から行政に対する強力なフィードバックの仕組みの『プロトタイピング』である。議会制民主主義を含めた、民主主義の仕組みを内部から変革することは難しい。だからこそ、スーパーシティという新しい切り口から、そのアップデートを試みていくことは欠かせない。

参考)
スーパーシティ構想における住民参画と合意ーオンライン意思決定プラットフォームの重要性(Lisearch Journal, 2020年6月8日)

なぜ「新しい民主主義の回路」が重要なのか

国民・住民から行政への強力なフィードバックを行う、新しい民主主義の回路を生み出す意義はとは如何なるものだろうか。国民から行政への強力なフィードバックを行う回路が存在することで、行政に国民のニーズは迅速に伝わる。同時に行政も国民に対して情報を適切に共有し、政策形成に国民の参画を促すことで、国民と政治の間の密なコミュニケーションを推し進め得る。これは、これまでに述べてきた『Government as a Service』の実現の前提となる。

ここで、住民が行政へ強力なフィードバックを行う「新しい民主主義の回路」を生み出す意義を整理し、確認したい。

① 「らしさ」とオーナーシップ

今般、住民がまちの行政のデジタル化が進む中で、システム標準化が推進されている。システムの標準化は、行政業務の標準化を推し進め、居住自治体を問わず、全ての住民への迅速かつ平等な行政施策の提供を実現するものである。結果、例えば行政サービスのマイクロサービスアーキテクチャの発想に基づく「切り出し」やAPIカタログなどの取り組み、あるいはシステムの利活用によるデータベースの整備も進むことが想定されることから、特定の自治体で奏功した行政施策の横展開がこれまで以上になされることは想像に難くない。

無論、システム標準化、そして先進施策の横展開が容易になることは、原則として歓迎すべきであろう。ただ、「どこかの自治体でうまくいったもの」を”輸入”して、施策を実施することが一般的になれば、例えば、その自治体固有の課題の解決が棚上げされる傾向が強化されることが想定される。また、住民が積極的に地方自治に参画しなかったとしても、「勝手に」施策が展開されるため、住民の”統治の客体としての意識(統治客体意識)”が強化される可能性は排除できない。住民から積極的にインプット/フィードバックを行う回路を設けない限り、その自治体の施策から「らしさ」が脱落し、住民はそのまちにおける”統治の主体としての意識(統治主体意識)”、まちの「オーナーシップ」を自覚することはないだろう。標準化による便益を確保しつつ、

まちの「らしさ」を保持し、住民がまちの「オーナーシップ」を自覚する仕掛けとして、新しい民主主義の回路を欠かすことはできない。

②民主主義のインプットの複層性の確保

ついで、統治システムとしての民主主義における、インプットの複層性の確保も意義の一つだろう。ドイツの政治哲学者であるJ・ハーバーマスが提唱した概念『2回路制デモクラシー』においては、法的に規定された制度的プロセス(選挙・住民投票等)と、市民社会における非定型的な合意形成プロセスの双方が存在することで、民主主義が深化するとされる。民主主義社会における、民意の政治へのインプットが複層的であればあるほど、(言うまでもなく集約に向けたコストは増大するものの)多様性を包摂し、導き出される結論の正統性が強化される。特に、スーパーシティにおいては、データ活用や規制緩和によって、従来のまちづくりよりも、その速度や論理が大きく異なる。一方で、選挙や住民投票といった制度的プロセスは、隔年のみでしか実施されない。結果、選挙や住民投票といった制度的プロセスの、民意の把握・集約の手段としての機能が、従前と比較して更に骨抜きになる可能性がある。

だからこそ、例えば熟議に基づく合意形成といった、これまでも民主主義の発展には欠かせないとされながらも、実施されてこなかった仕組みをテクノロジーを用いて実装し、既存の制度的プロセスと対をなす民主主義の回路をかたちづくることが肝要ではないか。

「絵を描く」政策形成のプロセスに、なんらかの形で住民が参画する仕組みは、まちの「らしさ」を創発し、住民の統治主体意識を涵養すると同時に、民主主義のインプットの複層性を確保するものである。国民・住民は、必ずしも新しい民主主義の回路への参画を強制されない。重要なことは「(より良い合意形成のために)一肌脱ぐ」住民や民間の受け皿を確保することである。視点を変えれば、新しい民主主義の回路に住民が参画した際には、住民は特定の政策課題について、自身の想像よりも多様な意見が存在し、相互に利害が干渉していることを目の当たりにするだろう。この経験が、個々人の間の相互理解の試みの素地となり、民主主義の担い手としての資質形成にも寄与するだろう。

新しい民主主義の回路で導出されたなんらかの結論を既存の制度的プロセスが確認・検証し、制度的プロセスにインプットとして取り込む。同時に、既存の制度的プロセスでは議論されない先進的・局所的な事柄などを、新しい民主主義の回路で熟議する。これら2つの回路が存在・機能することで、民主主義に基づいたより良い合意形成がなされるのではないだろうか。

尚、台湾においてvTaiwanが、スペインではDecidim(バルセロナ)やCONSUL(マドリッド)が実装され、EUのパイロットプロジェクトとしてWeGovNowプラットフォームが研究された(Horizon2020)には、これまで述べてきた背景があるものと推測される。

参考)
民主主義に基づいた意思決定プラットフォームの先行事例を探るーVoteIT, LiquidFeedback, Crowdpol(Lisearch Journal, 2020年4月13日)

Liquitousの役割とは

スマートシティ・スーパーシティの取り組みが加速する中、『新しい民主主義の回路』をつくり出し、住民から行政への強力なフィードバックを行う、そして国民と政治の間に密なコミュニケーションを生み出す重要性が増していることは、前述のとおりである。スマートシティ・スーパーシティに限らず、そもそもVUCA時代と呼ばれるように、社会変化の速度が著しい現代において、選挙や住民投票といった、民主主義の「制度的プロセス」の一定の限界が露呈していると指摘できる。『新しい民主主義の回路』の重要性は、もはや特定の(スマートシティ・スーパーシティの取り組みを進める)自治体に限定されるものではない。

だからこそ筆者は、今こそ民主主義のDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせないと考えている。選挙や住民投票といった、既存の制度的プロセスを電子化・デジタル化するのみならず、既存の制度的プロセスと並立する形で、住民が恒常的に行政施策に関わり、またオンラインで熟議や合意形成に携わるシステムをデジタル技術を用いて確立し、民主主義の機能改善・アップデートに挑戦する必要があると確信している。

弊社Liquitousが開発している、オンライン合意形成プラットフォーム”Liqlid”は、前述の「オンラインで熟議や合意形成に携わるシステム」のほかならない。弊社Liquitousは、Liqlidのスマートシティ、スーパーシティ等への実装を通して、新しい民主主義の回路のあり方を社会に広く提示していく。Liqlidの機能は発展段階ではあるものの、間もなく開始するLiqlidの実証実験を、我が国の民主主義の機能改善・アップデートの足掛かりとしたい。

弊社Liquitousは、『民主主義のDXに取り組み、自ら探究・実装するベンチャー集団』として、Liqlidを新しい民主主義のインフラとすべく、引き続きしっかりと歩みを進めていきたい。

参考)
「スクラムを組んで『民主主義のDX』を前に進めたい」:CEO・栗本拓幸インタビュー(Lisearch Journal, 2021年3月15日)

Author

栗本拓幸

CEO

CPO

1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。一社・NPO法人などを経て、2020年2月、民主主義のDXを進めるLiquitousを設立、CEOに就任。また、政策企画部門のリサーチャーとしても従事。 富士通総研『トポス会議』、経済同友会『未来選択会議』、JANIC『HAPIC2021』ほか登壇多数。ほか、アートプロジェクト「多層都市『幕張市』」コラボレーター、公共コミュニケーション学会(PRAS)会員など。

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