書評
【書評】テクノフォビアと向き合うために
未来政府: プラットフォーム民主主義 [著] ギャビン・ニューサム, リサ・ディッキー
政策企画部門が、Liquitousのキーワードに関連する書籍を取り上げ、リサーチャーの視点からレビューするコーナーです。第2回は、琴浦将貴さんが『未来政府』を扱います。
- 著者:ギャビン・ニューサム、リサ・ディッキー著(稲継 裕昭、町田 敦夫訳)
- 出版社:東洋経済新報社
- ISBN:9784492212288
- 発売⽇: 2016/09/30
昨今ではかなりの数の人々がスマートフォンを持ち、SNSで自分の出来事を発信し、パソコンで仕事をする。こうしたテクノロジー抜きで仕事をしたり生活をしたりすることは難しくなっていることだろう。
最近ではデジタル庁の設置のように行政(ガバメント)側でもテクノロジーの整備を強める動きが活発になりつつある。
この「未来政府」は、アメリカ・サンフランシスコを舞台に市民と政府をテクノロジーで繋ごうと邁進した著者や同じように改革を目指した者たちによる物語である。
technophobiaの歴史
technophobiaとはtech(技術)+phobia(恐怖症)を合わせた造語:技術恐怖症である。
一般に政治(それは政府にしても選挙にしても民主主義にしても)は新しいテクノロジーの導入には非常に動きが鈍い。今でこそ日本ではデジタル庁の動き等々はあるが、様々な手続きは紙ベースのものが多いし、選挙も紙で投票している。
※日本における電子投票の導入の歴史に関しては「電子投票導入黎明期の変遷の整理」を参照 (リンク: https://liquitous.com/lisearch/journal/2020/04/30/240/ )
著者もこのような現状を
“残念なことに、政府の歴史はテクノフォビアの歴史なのだ。”
と評している。
自動販売機と化す政府
序章において公共政策の専門家であるドナルド・ケトルの言葉を引用して政府を以下のように紹介している。
“とかく私たちは、政府というものを一種の自動販売機のようなものだと考えがちだ。税金を投入し、道路や橋、病院、消防、警察などの行政サービスを取り出す。そして、自動販売機から望みの物が出てこないと文句を言う。私たちは市民参加というものを、なぜだか自動販売機を揺さぶることと同一視するようになってしまった。”
『なぜ政府は動けないのかーアメリカの失敗と次世代型政府の構想』(ドナルドケトル、2008年、邦訳:勁草書房)
一定の行政サービスを提供できているならば、自動販売機と化した政府を一概に悪いとは言えないだろう。ただ、本当にこれでいいのだろうか。テクノロジーを使えば、行政から市民への一方的な施策ではなく、双方向の協働ができるかもしれないのに、本当にこのままでいいのだろうか。
本の中では、“自動販売機を捨ててしまえ”と、この疑問に対する著者なりの答えが続いている。
テクノロジーがもたらすもの
では、テクノロジーを使うとなにができるのか。たとえば本書の中では、市民集会における予算編成作業が挙げられている。市民集会の中で意見を言いたい市民に端末を渡し、意見を伝えてもらうものだった。結果、声の大きい利権団体に左右されることなく、より公平な分配ができたという。
このように『未来政府』ではテクノフォビアが蔓延る政治の世界で様々な課題にテクノロジーで解決を試みる話が詰まっている。投票、プラットフォーム、クラウド…
最終章の中で一節で著者は、
”テクノロジーはー私たちがそれを阻止しない限りー人々の手にパワーを与えるということだ。(中略)この権力の移転は明らかに私たちの声を民主化し、19世紀的な政府を21世紀のそれに変えていくカギになる。"
と述べている。
声の大きい利権団体に左右されず、テクノフォビアな政府にイノベーションを止めさせない、テクノロジーという新たな手段が政治をどのように変えていったのか。本書で明らかになる。
Author

琴浦将貴
Masaki Kotoura
Researcher / CTO
テクノロジーで社会を創る
2000年関西生まれ。 関東で育ち、東京都市大学理工学部に在学。Liquitousへは政策企画部門にリサーチャーとして参画。 大学では電気や通信について学んでいるが、それ以外にも交通、行政、危機管理や量子通信など様々な分野に興味関心がある。

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