書評
【書評】新しい民主主義って何だろう?
「デジタル・デモクラシーがやってくる!」[著]谷口将紀、宍戸常寿

政策企画部門が、Liquitousのキーワードに関連する書籍を取り上げ、リサーチャーの視点からレビューするコーナーです。記念すべき第1回は、藤井海さんが『デジタル・デモクラシーがやってくる!』を扱います。
- 著者:谷口将紀・宍戸常寿
- 出版社:中央公論新社
- ISBN:9784120052774
- 発売⽇: 2020/03/09
置いて行かれる「政治制度」
IoT・AI・ビックデータなどの技術革新により、人間とコンピュータの関係が急激に変化し、10年前とは比べ物にならないほど便利になっている現代社会は「第4次産業革命」とも呼ばれている。そんな中「政治」はなぜか昔も今もあまり変わっていない。本書は、第4次産業革命が民主政治をどのように変えるのかを、「情報流通の変化」「新しい合意形成の仕組み」「政治制度のアップデート」という3つの側面から、それぞれの専門家を招いて議論している。
「技術革新が進んだとしても、必然的に政治の在り方も変わるわけではない。第4次産業革命を政治に実装するため越えなければならない山が二つある」と筆者は言う。一つ目の山は技術的課題。例えば、選挙をネット投票にする取り組みはこれまでに何度か行われてきたが、多くは機械の故障などが原因で失敗に終わっている。特に、2003年の可児市議選が機械の故障のため無効になったのがきっかけとなり、電子機器を使用した選挙は行われなくなった。しかし、当時よりも技術が進歩した現在、2017~2018年に総務省が在外投票へのインターネット投票導入を検討しているように、現在実証実験の段階まで来ている。もう一つは民主主義の根源的課題である。ひとえにネット上で投票ができるようになったとしても、秘密投票の原則が脅かされないか、電子会議が実現され、時間と場所が制限されずに会議ができるようになるとするならば、現状の議員の数はこのままで良いのか、などという問題が出てくる。このように既存の政治の仕組みを変えるとなると新たな問題が次々と出現する。技術的課題は比較的容易に乗り越えられそうであるが、民主主義の根本的な課題の解決には時間を要するだろう。
民主主義×テクノロジー
投票率に表れているように国民の政治参加率は低いことを考慮すると、既存の政治の仕組み(代議制民主主義)が最善だというわけではないことは明らかである。既存の政治の仕組みには何らかの変化は必要だ。その解決策の一つとしてテクノロジーをうまく利用する動きは今後必要であり、デジタル庁発足を機に加速するだろう。
国民の大半がスマートフォンを筆頭にデジタルデバイスを持つようになり、現代技術は、なくては生活が困難になるほど我々の日常に浸透している。この現状を踏まえると、「民主主義」がテクノロジーによって進化してもなんら不思議はない。実際に、エストニアは電子投票を成功させている国として本書にも取り上げられている。根本的な問題があるにしろ、「民主主義」×「テクノロジー」の世界はいずれやってくる。この波に乗り遅れないためにも、我々は準備する必要がある。
本書の魅力は、編者は専門家の話を聞き、質問を投げかけ、感想を述べるので著者というよりも読者代表といった立ち位置で話が進んでいく点だ。「民主主義」という難しい議題ながらも理解に易く、読者目線で対話が進む形式になっているので、今後の民主主義×テクノロジーの動きを分かりやすく押さえておきたい人にはぜひ読んでいただきたい一冊だ。
Author

藤井海
Kai Fujii
Researcher / CBO
民主主義をもっと身近に!
2000年生まれ。東京都台東区出身。法政大学法学部政治学科に在学。中学生の頃、台東区のデンマーク海外派遣に参加し、日本とデンマークの教育や政治などの社会システムの違いに衝撃を受ける。以来、政治に関心をもち、大学では主に経済分野から政治を学ぶ。

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