調査研究

政策企画部門

藤井海

2020/06/15

インターネットアクセスは基本的人権になり得るか

インターネット

基本的人権

<はじめに>

今日の日本ではサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた社会であるSociety5.0到来に向けて準備が着々と進められている。総務省によると2017年の個人におけるモバイル端末の保有率は84.0%であり、世帯保有率は94.8%に及ぶ。(1) 急速なIT技術が発展したおかげで、誰もがインターネットにアクセスでき、世の中がどんどん便利になっていく。インターネットという存在は私たちの生活に密接に関わっており、もはや手放せない存在となりつつある。この認識はコロナ禍下で痛感しただろう。その一方でインターネットにアクセスしない、もしくはアクセスできない状況にある国民も一定数いる。これらの国民は近い将来到来するであろうSociety5.0社会で、健康で文化的な最低限度の生活を送れるだろうか。国内の事例を踏まえながら私たちとインターネットの関係性を探っていく。

<具体的な取り組み>

Society5.0時代に向けて日本政府は動き出している。

<GIGAスクール構想>

令和元年度予算に2318億円が盛り込まれた「GIGAスクール構想」をご存じだろうか。これは「児童生徒に1人1台端末及び高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる。」(2)という構想である。令和時代のスタンダードな学校像として、全国一律のICT環境整備を急務としており、その時代に求められる能力は「飛躍的な知の発見・創造など 新たな社会を牽引する能力」と「読解力、計算力や数学的思考力などの基礎的な学力」であるという。つまりこれは到来が喧伝されているSociety5.0時代に対応し活躍できる人材を育てることを目的とした政策である。(3)

<ブロードバンドをユニバーサルサービスに追加する動き>

日本でブロードバンドをユニバーサルサービスに追加する動きが始まっている。ユニバーサルサービスというのは電気通信事業法で「あまねく日本全国に提供が確保されるべき」と規定されているサービスである。具体的には、加入電話(加入電話に相当する光IP電話を含む)、社会生活上の安全や戸外での最低限の通信確保する観点から設置されている第一種公衆電話及び110番、118番、119番の緊急通報がユニバーサルサービスにあたる。(4)

総務省の情報通信審議会の下にある「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会」は中間報告会で

「Society5.0時代を見据え、今後国民生活に不可欠なサービスが多様化することを踏まえれば、技術中立性確保の観点からも、いつまでも加入電話等のみが基礎的電気通信役務として位置付け続けられることが適当とは思われない。そのため、国民生活に不可欠となる新たなサービスとして、例えば、ブロードバンドサービスを将来的に基礎的電気通信役務として位置付けることも見据え、現行制度の在り方について検討していくことも考えられる。」(5)

と報告した。

「ユニバーサルサービスにブロードバンドを追加する動き」と「GIGAスクール構想」は、どちらもインターネットへアクセスすることが生活するうえで欠かせないものであると認識し、Society5.0の時代に対応していくための取り組みである。また「GIGAスクール構想」の下で育った子供たちはインターネットにアクセスすることを前提として教育を受けているので、大人になってもインターネットなしで生活することはほぼ不可能だろう。これらの事例を踏まえると、これからの社会でインターネットへのアクセスが必要不可欠になるのは間違いない。

<デジタルデバイド>

インターネットにアクセスすることが当たり前となっている今日では、デジタルデバイド(情報格差)の問題が深刻になっている。日本においてデジタルデバイドは「インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差」(1 平成 16 年版情報通信白書)と定義されることが多い。具体的には、インターネットやブロードバンド等の利用可能性に関する国内地域格差を示す「地域間デジタルデバイド」、身体的・社会的条件(性別、年齢、学歴の 有無等)の相違に伴うICTの利用格差を示す「個人間・ 集団間デジタルデバイド」、インターネットやブロードバンド等の利用可能性に関する国際間格差を示す「国際間デジタルデバイド」等の観点で論じられることが多い。(6)

<デジタルデバイドの具体的な数字>

ここでは国内の「個人間・集団間デジタルデバイド」と「地域間デジタルデバイド」について取り上げる。まず「個人間・集団間デジタルデバイド」の側面では年齢や年収が挙げられる。2017年における個人の年齢階層別インターネット利用率は、13歳~59歳までは各階層で9割を超えているが60歳~64歳において81.2%、65~69歳において67.9%、70歳~79歳において46.7%、80歳以上関しては20.1%である。60歳から80歳以上のインターネット利用率は平均したら50%程度であり、13~59歳までの利用率との差は歴然である。また、所属世帯年収別の利用率は、400万円以上の各階層で8割を超えている一方で、400万円未満の利用率は6.5割程度にとどまっている(7)など年齢、年収ともに差が見られる。さらに「地域間デジタルデバイド」の側面では「平成29年通信利用動向調査」によると、モバイル端末(携帯電話、PHS及びスマートフォン)の保有率はどの地方も90%を超えている(鹿児島県のみ89.7%)が、仕事で重要な役割を担っているパソコンの保有率は最大で北陸地方の78.3%であるのに対し、九州・沖縄地方でのパソコン保有率は60.9%である。(8)

このように「個人間・集団間」と「地域間」の両側面でインターネットの利用率及びデバイスの保有率に大きな格差がある。

<政府のデジタルデバイド対応>

デジタルデバイドが深刻化してきた中でその状況を改善しようとする動きも出てきている。

総務省は平成22年度末を達成年限としたブロードバンド・ゼロ地域の解消や、携帯電話不感地帯の解消を実現し、デジタルデバイドを解消するための 具体的施策について検討を行うため、平成 19 年 10 月から「デジタルデバイド解消戦略会議」を開催し、平成 20 年 6 月に最終報告書を取りまとめ、公表。また、この報告書を踏まえ、デジタルデバイド解消に関するマスタープランとして、「デジタルデバイド解消戦略」を取りまとめた。(6)

2008年6月の総務省通信基盤局によるデジタルデバイド解消戦略報告書(案)によると「ブロードバンド等の整備促進を図ることにより、地域間格差の是正を図り一層の地域活性化に資するという観点は重要であり、ユニバーサルサービス制度の在り方の検討は、引き続きこれまでの基本的考え方を維持しつつ、ブロードバンド等の普及状況を踏まえながら行うことが適当である。そのため、2010 年度を目標年限として、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を図ることとした場合、それ以降のブロードバンド基盤の維持等について、ブロードバ ンド・サービスの普及状況を踏まえ、ユニバーサルサービス制度の見直しと関連して、国民のコンセンサスを得つつ議論を具体化していく必要がある。」(9)とある。

<まとめ>

現在のブロードバンド普及率を考えると、ブロードバンドはユニバーサルサービスとして扱われるべきではないだろうか。「GIGAスクール構想」もSociety5.0の到来を予想しての取り組みである。これからネット空間を使ったビジネスや政策などの取り組みは増えていき、インターネットというものが生活に欠かせないものなるのは誰が見ても明らかである。政府は「個人間・集団間」と「地域間」、両方の側面でのデジタルデバイドの解消に取り組んでいるものの、格差は依然として残っている。インターネットにアクセスすることができない国民はSociety5.0に突入した社会で、アクセスできる国民と同じような生活水準を保てるだろうか。日本国憲法では〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕として第25条 すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。とある。(10)現在の日本社会情勢を鑑みると、政府は誰もが自由にインターネットにアクセスできる権利を基本的人権として保障すべきではないだろうか。国民はこれからの未来に備え、インターネットアクセスの権利を基本的人権の一部として要求していく必要があるだろう。


参考文献

(1)『情報通信機器の保有状況』総務省(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd252110.html#:~:text=2017%E5%B9%B4%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%80%8B%E4%BA%BA%E3%81%AE,2%2D1%2D2%EF%BC%89%E3%80%82, 閲覧日:2020年5月28日)

(2)『GIGAスクール構想の実現』文部科学省 (https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_403.pdf,閲覧日:2020年5月28日)

(3)『新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)』文部科学省(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/24/1418387_01.pdf,閲覧日:2020年5月29日)

(4)『ユニバーサル制度パンフレット』総務省             (https://www.soumu.go.jp/main_content/000660180.pdf,閲覧日:2020年5月29日)

(5)『ネットワークビジョンを見据えた 基盤整備等の在り方について』総務省 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000629640.pdf,閲覧日:2020年6月1日)

(6)『デジタルデバイドの解消』総務省(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n2020000.pdf,閲覧日:2020年6月3日)

(7)『インターネット利用状況』総務省(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd252120.html,閲覧日:2020年5月30日)

(9) 『デジタル・デバイド解消戦略会議 報告書 2008年6月 総務省総合通信基盤局 (案)』総務省  (https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/ddcon/pdf/080620_si1.pdf,閲覧日:2020年6月2日)

(10)『日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務』             (http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm#3sho,閲覧日:2020年6月2日)

Author

藤井海

Researcher of Policy Research Div.

2000年生まれ。東京都台東区出身。法政大学法学部政治学科に在学。中学生の頃、台東区のデンマーク海外派遣に参加し、日本とデンマークの教育や政治などの社会システムの違いに衝撃を受ける。以来、政治に関心をもち、大学では主に経済分野から政治を学ぶ。CBO明田の紹介でリサーチャーとして参画。

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