調査研究

政策企画部門

栗本拓幸

2020/05/31

日本における個人情報に係る法制度の検討

スーパーシティ法に関連した個人情報の議論を受けて

スーパーシティ構想

個人情報保護法

官民データ活用

中国やシンガポールに代表される非・自由民主主義諸国が、その強権的な姿勢を背景に、テクノロジーの社会実装による未来都市の実現を急速に進めている。その中で、日本が日本なりのスーパーシティを実現する際に重要な視点は、人権と個人情報の保護であることは言うまでもない。

我が国におけるデータと個人情報に関する法制度

日本においては、官民のデータ活用と個人情報保護に係る法的基盤として、前者については官民データ活用推進基本法(以下:官民データ法)、後者については特に個人情報を取り扱う民間事業者の監督に主眼を置いた、個人情報の保護に関する法律(以下:個人情報保護法)、行政機関の個人情報の取り扱いに焦点をあてた、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下:行政機関個人情報保護法)などが存在する。

官民データ活用推進基本法では、”官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し,もって国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与すること が目的として謳われている(1条)。これは、「皆がデータを活用することができる環境を整備することが、ひいては国民一人ひとりの幸福に繋がる」という発想に基づくと指摘できるだろう。そして、このデータの活用と個人情報保護は、常にそのバランスが問われることとなる。先ほど挙げた中国やシンガポールにおいては、データの利活用が個人情報の保護に優先している側面があることは否めない。ただし、日本の法制度では、官民データ法においても個人情報をはじめとする個人の権利権益の保護がより優先することが明確に謳われている(3条1項及び3項など)。

民間事業者に係る個人情報の保護

個人情報保護法については、本年2020年には同法附則[1]に基づく3年ごとの法改正が行われようとしている。今回の改正では、世界各国の個人データ保護規制(EUにおけるGDPR、米国カリフォルニア州のCCPA等)に準ずる形で、個人の権利保護が拡充されることとなる。特に個人データの利用停止権や消去権、第三者提供権が法的に強化される。例えば個人データを本人の同意なくして第三者提供できるオプトアウト規定の範囲が、民間事業者の先進事例[2]に応じて厳格化される点は注目に値すると言えるだろう。

同時に、個人情報の一類型として、他の情報と照合しなければ個人の識別ができないように加工された『仮名化情報』制度が導入される。これにより、仮名化情報に限って、本人からの請求への対応義務が緩和され、事業者内部でのデータ分析が容易になることが想定される。これらのことから、原則としては同法改正案においても、個人の権利権益の保護を最優先としながら、データの利活用を推進する観点から、現実的に折り合いをつけていると評価できるだろう。今回のスーパーシティ法で実現する特区のデータ連携基盤に関連する民間事業者も、この法制度の遵守が求められることは言うまでもない。

公的機関における個人情報の保護

行政機関における個人情報の取り扱いについても言及したい。個人情報の保護について、基本理念等は民間事業者と公的機関(国・地方公共団体、独立行政法人)に差異はない[3]。しかし、個人情報を取り扱う民間事業者については、個人情報保護法第4章以降でその義務が定められ、国・地方公共団体の義務については行政機関個人情報保護法において定められている。

原則として、行政機関個人情報保護法についても、個人情報保護法の改正を後追いする形で、逐次改正がなされている。ただ、詳細な部分では例えば「個人情報」が根拠法によって異なり、民間部門と公的部門のデータのやり取り等の障害となっているなど、両者の間には不整合が存在することも否めない。そして、民間部門と公的部門の根拠法が異なる結果として、現在は民間事業者を監督する機関として個人情報保護委員会が存在する一方で、公的機関における個人情報の取り扱いを監督する第三者機関が存在しないことは、特に懸念すべき点であろう。

今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、政府はヤフーやNTTドコモなどに対して、統計データの提供を要請[4]し、それに基づいて各社から協定書に基づいたデータ提供[5]が行われている。無論、これは統計データであり、個人を識別することができる個人情報に直接的には該当しない。ただ、国や地方公共団体は、同法23条の例外規定に基づき、(本人への通知なく)個人データの提供を事業者に求めることが制度上は可能であること、あるいは近い将来に、公的機関がデータを今日以上に扱うことを鑑みれば、現在の様に、抑制的な運用でその安定性を担保するのみならず、公的機関を個人情報保護委員会の監督の対象にするなど、そのガバナンスを強化して、公的機関におけるデータの取り扱いを透明化する必要に迫られていると指摘できるだろう。

今後の動きと方向性

現在、内閣官房では個人情報保護法、行政機関個人情報保護法等の統合などが議論されており[6]、まずはその推移を観察することが重要であると言えるだろう。ただ、中長期的には、例えばブロックチェーン技術を活用して、特定個人のデータがどのように処理されたのか、あるいは個人データに誰がいつアクセスしたのか、全てタイムスタンプ形式で記録保存し、マイナンバー制度に基づいて国民が自身のデータへのアクセス履歴を常にレビューすることができる制度などの構築も必要ではないだろうか。

官民を問わず、データ活用の機運が高まっているからこそ、特に公的機関は、データ利活用について、その透明性の担保に向けて、積極的に技術の実装を行いつつ、スーパーシティ構想をはじめとする官民を挙げたデータ活用の「旗振り」役を担うことを期待したい。


  • [1] 個人情報保護法附則(平成27年9月9日法律)
  • [2] Yahoo Japanやドコモなどの「個人データの第三者提供に関する同意の管理」など
  • [3] 個人情報保護法第1章〜3章において、その理念等が示されている
  • [4] 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資する 統計データ等の提供について(要請)(内閣官房IT総合戦略室 内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 総務省 厚生労働省 経済産業省の連名による要請) https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331017/20200331017_a.pdf 閲覧日:2020年5月29日
  • [5] 例えばYahoo Japan社は、厚生労働省との間に『新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定書』を締結している。結果的に、この協定はYahoo Japan社がデータの加工等を行うなどの条件が課されることで、民間事業者による協力という形式に落ち着いた。ただ、政府は前述の要請文において、個人情報保護法の例外規定に言及するなど、本文中で触れた事項に関連した懸念が残っていることは付言したい。 https://about.yahoo.co.jp/pr/mhlw_agreement_20200413.pdf 閲覧日:2020年5月29日
  • [6] 内閣官房には、2020年3月(令和元年度)に『個人情報保護制度の見直しに関する検討会」が設置され、2020年夏頃の中間報告及び年末頃の最終報告の取りまとめがスケジュールとして示されている。

参考文献

  1. 官民データ活用推進基本法(電子政府の総合窓口e-Gov, 官民データ活用推進基本法, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=428AC1000000103 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  2. 個人情報の保護に関する法律(電子政府の総合窓口e-Gov, 個人情報の保護に関する法律, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  3. 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(電子政府の総合窓口e-Gov, 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律, https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000058 , 閲覧日: 2020年5月28日)
  4. 個人情報保護制度見直しの進め方(案)について(内閣官房, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kojinjyoho_hogo/kentoukai/dai1/siryou1.pdf , 令和2年3月9日)

Author

栗本拓幸

Hiroyuki Kurimoto

代表取締役CEO

スクラムを組んで『民主主義のDX』!

1999年生まれ、横浜市で育つ。18歳選挙権などをきっかけに、市民と政治・行政の関係性に問題意識を持つ。2018年に慶應義塾大学総合政策学部に入学以降、選挙実務や地方議員活動のサポートに従事した他、超党派議員立法の事務局などに携わる。市民と行政を繋ぐ「新しい回路」の必要性を痛感し、Liquitousを起業。

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