調査研究

政策企画部門

栗本拓幸

2020/05/03

インターネットアクセスは基本的人権なのか?

ポストコロナ時代のニューライツを提起せよ

インターネット

エストニア

フィンランド

基本的人権

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、社会の様々なところで、インターネット環境を活用して事業継続が試みられている。会社、中央省庁、自治体、大学、学校…。インターネットを活用したテレワークが、一気に広まり、急速に市民権を得つつある。収束する見通しがつかない情勢である以上は、このテレワークに拠って立つ状態は当面の間継続すると想定される。

欠かせなりつつあるインターネットアクセス

確かに、インターネットに接続する環境が等しく整備されていれば、インターネットに拠って立つ社会の変化は、好ましいと言えるだろう。例えば教育業界においては、この状態に対応するために、私立大学であれば、WiFiルーターの貸し出しや一時金の給付を行う、あるいは私立中学・高校などにおいても、既設の1人1台環境を活用する形で学びを継続し、公的補助に頼らない形でこの局面に立ち向かう動きも見られる。一方で、公立学校では、リアルタイム配信などいざ知らず、オンデマンド配信やオンラインへの課題の配信すら覚束ない。あるいは何かしらオンラインで配信しようとしても、受け手である生徒の家庭の環境整備が追いつかない(加えて所属機関からの補助もない)といった事例も存在し、所属する機関・組織の財政基盤の差異によって、個々人が得ることが出来るものは質・量ともに大きく異なる現状にある。

つい先日執行された衆議院静岡4区の補欠選挙も、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を大きく受けた。応援の代議士は静岡県入りを控え、オンラインで応援演説を行い、TwitterをはじめとするSNSで活発に選挙運動を展開していた。今般の新型コロナウイルス感染症に係る社会変化の以前から、インターネット上での選挙運動・政治活動は拡大の一途を辿っているが、仮にオフラインで選挙運動・政治活動に触れることが出来なくなった場合に、あらゆる属性の国民に対して、主権者として政治参加する機会が保障されていると言えるか、疑わしい側面があることは否めない[1]。

少なくとも、私たちの生活の基盤としてのインターネットの役割は、今後も強化されていくことは容易に想像できる[2]。その時に、自身でインターネット環境を整備できない個人について、『インターネットアクセスは基本的人権』として保障し、公的にその整備を支援すべきであろうか?

諸外国・国際組織では

諸外国や国際組織においては、インターネットと基本的人権の関係性を論じる動きが盛んである。論調を大分すると、言論・表現の自由からインターネットアクセスを評価する文脈と、(回線事業者等に対する法的な制約として)インターネットへのユニバーサルサービスとして位置付ける文脈の2つが存在する。前者については、インターネット上で検閲などの規制等を行う国家を念頭に、基本的人権としてインターネットアクセスを保障し、言論・表現の自由を実現しようとするものである。例えば、国連・人権理事会が2016年7月に決議した文書(A/HRC/32/L.20)では、

Decides to continue its consideration of the promotion, protection and
enjoyment of human rights, including the right to freedom of expression, on the Internet

32/… The promotion, protection and enjoyment of human rights on
the Internet
(A/HRC/32/L.20)

と定められ、インターネット上における人権保障の重要性を示している。

また、インターネットをユニバーサルサービスの一環として位置付ける法制度の整備も進んでいる国も少なくない。そもそもユニバーサルサービスとは、重要インフラについて、地理的(どこでも)・社会的(誰でも)・経済的(負担可能な)・技術的(均一な水準で)に公平な形で提供され公共的なサービスを指す用語であり、日本では電力・郵便・電気通信[3]などを挙げられる。

この発想に基づいて、例えばスペインでは、General Telecommunications Act (一般電気通信法: Ley 9/2014, de 9 de mayo, General de Telecomunicaciones., article22)を根拠にインターネットがユニバーサルサービスに含まれていると理解されているほか、トルコでは、Universal Service Law(ユニバーサルサービス法: No.5369 EVRENSEL HİZMET KANUNU)が2008年に改正され、第1章(目的と定義)において、インターネットがユニバーサルサービスに含まれることが明確に謳われる様になった。

こうしたインターネット上の人権保障とインターネットのユニバーサルサービス化が合わさった複合的な概念として、インターネットアクセスそのものを基本的人権として保障する国も登場している。エストニアとフィンランドとして取り上げられる機会は少なくない。

エストニアにおける基本的人権としてのインターネットアクセス

エストニアでは、Public Information Act(公共情報法: Avaliku teabe seadus, article33)に次の条文が存在する。

§ 33. Access to data communication network / Juurdepääs andmesidevõrgule

Every person shall be afforded the opportunity to have free access to public information through the Internet in public libraries, pursuant to the procedure provided for in the Public Libraries Act. (*注: 公式な英訳)

Igaühel peab olema võimalus Interneti kaudu vabaks juurdepääsuks avalikule teabele rahvaraamatukogudes rahvaraamatukogu seaduses sätestatud korras.

Public Information Act- Riigi Teataja 

この条文が『すべての人は、公共図書館において、インターネットを利用して無料で公共の情報を閲覧する機会を与えられなければならない(筆者訳)』と定めている様に、エストニアにおいては法的にインターネットアクセスが保障されている。

そして、Public Libraries Act(公共図書館法: Rahvaraamatukogu seadus, article15 Paragraph2 Sub-paragraph1)において、このインターネットアクセス権を保障する為の具体的な図書館の役割が定められている。

§ 15. Readers and services / Lugeja ja teenused

(21) A person requesting information shall be given the opportunity to use a computer in order to access information available through the public data communication network, pursuant to the Public Information Act. (*注: 公式な英訳)

(21) Avaliku teabe seaduse alusel üldkasutatava andmesidevõrgu kaudu avalikustatud teabega tutvumiseks võimaldatakse teabe taotlejal kasutada arvutit.

Public Libraries Act- Riigi Teataja

これら2つの法律・条文の組み合わせによって、エストニアではすべての人がインターネットにアクセスすることを保障している[4]と言えるだろう。2000年にPublic Information Actが成立した際に、世界で初めてインターネットの接続を基本的な権利として保障する法制として、注目を集めたことを付記しておきたい。[5]

フィンランドにおける基本的人権としてのインターネットアクセス

フィンランドもエストニアと同様に、インターネットアクセスを普遍的な権利として法的に承認している国の1つ[6]である。フィンランドでは、2010年に Communications Market Act(通信市場法: 393/2003 Viestintämarkkinalaki Kommunikationsmarknadslag, Chapter6 Section60c (363/2011) (1)-(5))が改正されたことにより、2014年に至るまでインターネットがユニバーサルサービスの1つとして位置付けられていた。同法に基づいて通信規制当局であるFICORAにユニバーサルサービスのオペレーターとして指定された通信事業者は、運輸通信省の規程に基づく速度[7]を担保してインターネットアクセスを提供することが義務付けられていた。

2014年に同法が廃止され、Information Society Code(電子通信サービス法: 917/2014 Laki sähköisen viestinnän palveluista)が制定された。同法は2018年に改正され、インターネットがユニバーサルサービスの1つに位置付けられた。(Section87)

§87

(Excerpt:) Provisions on the minimum speed of an appropriate Internet access are laid down by Ministry of Transport and Communications Decree.(*注: 公式な英訳)

Liikenne- ja viestintäministeriön asetuksella säädetään tarkoituksenmukaisen internetyhteyden vähimmäisnopeudesta. 

Information Society Code - Finlex.fi

その上で、前述の旧・通信市場法と同じ形式で、通信規制当局であるTRAFICOM (2019年1月にFICORAが改組発展) にユニバーサルサービスのオペレーターとして指定された通信事業者は、運輸通信省の規程に基づく速度を担保して、インターネットアクセスを提供することが、今日でも義務付けられている。

こちらに関しては、機会保障というよりも、ユニバーサルサービスとしてのインターネットをより実効的に保障することを目的とした法制と評価することが適切であろう。

日本の状況を見て

では、日本においてはインターネットと権利の関係性は如何に定義付けられているのであろうか。例えば、インターネット上の人権保障という観点から見れば、日本は世界の中では相対的に言論・表現の自由は担保されていると言えるだろう。(参考: 中国・ロシアにおけるネット規制に関する雑考 4章「日本のインターネット自由度:エストニアとの比較」[外部リンク])

しかし、日本の電気通信事業法においては、依然として公衆電話・緊急通報を含む固定加入電話のみがユニバーサルサービスとして扱われ、インターネットはそれに分類されていない。結果、現行制度下で電話サービスを提供している通信事業者から負担金を徴収し、地方部等のインフラ整備を行う仕組み(ユニバーサルサービス制度)をインターネット回線の全国整備に用いることは出来ない。指摘するまでもなく、インターネットアクセスの機会保障も法的になされていない。

しかし、少なくともコロナ禍下においては、例えば生存権(憲法25条)や教育権(憲法26条)、あるいは憲法前文に定められる国民主権とその一環としての選挙権(憲法14条)を過不足なく行使する為には、オンライン環境が欠かせなくなりつつあることは認めざるを得ないところではないか。

加えて、内閣に設置されている未来投資会議が策定し、閣議決定された『未来投資戦略2018』等でも明らかである様に、今の日本はフィジカル空間とサイバー空間が高度に融合するSociety5.0への変革期を迎えている。Society5.0はインターネットインフラが広く遍く存在することを前提とすることは言うまでもない。

(近い)将来に、コロナ禍が収束した先にある社会は、以前にもましてインターネットインフラへの依存が進み、Society5.0により近い社会になることは想像に容易い。だからこそ私は、コロナ禍が明らかにした社会インフラの脆弱性を補強し、社会の弾力性を高める為にも、あるいは、より近い将来に存在するSociety5.0の到来に備える為にも、インターネットアクセスを我が国においても基本的人権の1つとして保障する意義があると考える。

インターネットをユニバーサルサービスとして定義し、社会全体でインフラ構築を行う体制を整備する。そして経済的に弱い立場にある人々に対しても、何らかの形でインターネットを利用する機会を保障する[8]。これらの施策によって、長期的には行政コストのスリム化を実現しつつも、誰も取り残すことのないSociety5.0への移行が実現できるのではないだろうか。


  • [1] 例えばMerten Reglitz (University of Birmingham)は、今日においてはインターネット上で多くの政治的行動が行われており、政治的権利を行使するためにはインターネットを欠かすことができない為、インターネットアクセスを基本的人権として保障すべきと主張する。(参照: Merten Reglitz, "The Human Right to Free Internet Access", Journal of Applied Philosophy, 2019)
  • [2] 今般実施される特別定額給付金の申請手続きのように、例えば行政手続き等についても、オンライン環境(とマイナンバーカード)を用いることでスピードと正確性の向上も見込まれ、尚且つコストの縮減も期待される。
  • [3]電気通信事業法に基づき、電信・電話事業がユニバーサルサービスとして扱われている。但し、ブロードバンドインターネット接続に関しては、日本ではユニバーサルサービスに含まれていない。
  • [4] 広報戦略を強化するエストニアは、度々“Access to internet is considered a human right”という一節を用いて、その先端性をいわば"売り"にしている。(参考: Invest in Estonia https://investinestonia.com/president-kersti-kaljulaid-access-to-internet-is-considered-a-human-right/) 閲覧日: 2020年5月1日
  • [5] ネットメディア等の記事で『エストニアは2000年世界で初めてインターネットアクセスを基本的な権利として認めた』と言及する対象は、2000年の公共情報法の成立である。
  • [6] 立法はされていないものの、2009年にフランスの憲法評議会(Conseil constitutionnel)は、インターネットアクセスをフランス人権宣言11条(表現の自由)に基づく基本的な権利として認定するなど、インターネットアクセスを基本的な権利として認める国は少なからず存在する。
  • [7] 2010年の同法改正時には、ダウンストリームトラフィックの最小レートが1Mbps/sと定義されていた。(参照: https://www.lvm.fi/en/-/1-mbit-internet-access-a-universal-service-in-finland-from-the-beginning-of-july-782612 )
  • [8] マイナンバーカードの普及促進と両輪で進めて初めて、大きな効果を期待することができるのではないか。

参考文献

Author

栗本拓幸

CEO

Chief Officer of Policy Research Div.

1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。「知性ある日本」をテーマに、政治参画、Govtech、統治機構改革などの分野で研究を進めながら、NPO法人Rightsをはじめとする複数の法人で理事他、政策提言、教育現場でのファシリテーターやラジオパーソナリティ、YouTube配信など。公共と市民の関係性、Society5.0が喧伝される中で民主主義の在り方についての問題意識から、液体民主主義の社会実装を試みる合同会社Liquitousを設立。富士通総研・トポス会議他登壇多数。公共コミュニケーション学会 (PRAS) 会員。

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