オピニオン

政策企画部門

栗本拓幸

2020/04/20

プロジェクトベースの意思決定と液体民主主義

ポストコロナ社会を見据えて

ポストコロナ

新しい当たり前

液体民主主義

日本においては長年、例えばテレワーク、あるいは企業・組織のDXはテーマとして取り組まれてきましたが、その成果が目に見えたものに繋がることは、必ずしも多くはありませんでした。しかし、COVID-19を巡る情勢が混迷を極める中、COVID-19の感染拡大を抑止することを目的に、企業においてはテレワークやDXが急速に進みつつあります[1]。

もちろん、企業に限らず、例えばNPO・NGOといったサードセクターにおいて、あるいは高校・大学といった教育・研究機関などにおいても、なんらかの形でのテレワーク導入やDXを迫られていることはいうまでもありません。

このテレワーク導入やDXの流れは、今後も数年単位で進んでいくことは容易に想像が出来ます。その理由として、単にCOVID-19の収束がいつ頃になるのか分からない(感染症である以上、一般的には複数回のピークを私たちはこれから経験しなければならないでしょう)こと、あるいは私たちがテレワークという新しい働き方を受容しつつある故に、元々の働き方へ後退することが難しい[2]ということも挙げられます。

そして、テレワークという働き方が加速すると、「(会社などの)組織に所属する」ことの意味合いが従来のものから変化するのではないか、と筆者自身は考えています。これまでは朝電車に乗って会社に行く、昼は仕事のために会社にいる、夜は電車に乗って会社から帰宅するという働き方が一般的でしたが、テレワークが進んだ近未来においては、家から仕事ができる訳ですから、「会社にいる」という行為や「会社」という場所そのものが直接的に個々人の仕事と結びつかなくなります。加えて、通勤に必要な時間等がなくなることから、個人の可処分時間が増加し、例えば副業・兼業や社会活動への参画が容易になります。これらの事柄を考えれば、空間的・時間的に(企業に縛られて)仕事をする形ではなく、業務・タスクが直接的に個人と紐づく形への変容する可能性は十分にあるのではないでしょうか。換言すれば、仕事がより独立したプロジェクト化し、個人は複数の(企業などの)組織に所属することが当たり前になる、ということになります。

また、ポストコロナの社会は、「オンラインであること」がこれまで以上に当然のこととして受け入れられるでしょう。例えばWeb会議システムの利用が急速に拡大し、私たちがその利便性を享受[3]する中、ポストコロナの社会においても、Web会議システムは(少なくともコロナ前の社会と比較するとより高い頻度で)使用され続けることが想定されます。そもそもオンラインの特性は、空間的な距離を圧縮し、現実では不可能な様々な機能を空間に付与して、機能を拡張する点にあります。この特性がある故に、例えばオフラインで何か打ち合わせをする際と比較して、より多くの人々を巻き込むことができます。あるいは、その場の様子を保存することができる(=録画することができる:シェアできる)などの利点も挙げることができます。

これまで述べてきたことを総合して考えると、ポストコロナの社会においては、オンラインツールを活用しながら、プロジェクトベースの仕事を様々な組織の人間と協働して進めることが「新しい当たり前」になると指摘できます。ただ、実際には組織によって意思決定プロセスの在り方には差異がありますし、何より(参画する人間の数が増えれば増えるほど)個々のこれまでの経歴、これまでに携わってきたプロジェクトにおける行動や発言といったバックグラウンドを把握することはより困難になります。単に、これまでオフラインで行ってきた事柄をそのままオンラインに置き換えても、必ずしも上手く行きませんし、「オンラインである」ことの価値は最大化されません。

そこで、筆者はLiquitous Inc,で目下開発を進めている液体民主主義に基づいた意思決定プラットフォーム『Liqlid』を活用することで、ポストコロナの「新しい当たり前」に対応することができるのではないかと考えています。Liqlidは、オンライン上にプロジェクトベースで意思決定のプロセスを生み出すソフトウェアです。Liqlidは、1ユーザーが基本単位となるソフトウェアの設計を想定しています。そして、複数のユーザーの集合体をLidと呼称しています。

従来のコミュニケーションアプリは、組織を基本単位とするものが多く、組織を越えたコミュニケーションを行うことに一定の困難さがありました。加えて、コミュニケーションを軸を定めている為、プロジェクトが進行する過程で、今はどの段階に位置していて、何が必要なのか、ということも把握することが困難であったと言えるでしょう。Liqlidは、意思決定に主眼を置くことで、既存のコミュニケーション・ソフトウェアとの棲み分けながら、組織の意思決定をオンラインで支援することを目指しています。

また、組織を越えた意思決定を行う際に、どの様なプロセスを経て、起案から決定に至るのか、不明瞭であることも課題となります。加えて、組織を越えるからこそ、特定の組織の中で肩書によって指示系統を筋立てることも難しくなります。そこでLiqlidでは、どの様なプロセスを経て意思決定を行うのか、Lidの中でプロジェクトを開始する前に設定することができる様にします。そして、Liqlidそのものが液体「民主主義」に基づいたプラットフォームである為、組織を越えてLidが構成されていたとしても、構成員一人ひとりの意見を意思決定プロセスに反映させた意思決定が行われる設計となっています。

プロジェクトベースの仕事を様々な組織の人間と協働して進めることが「新しい当たり前」になるポストコロナ社会を見据えて、筆者自身も政策企画部門を通して、企業をはじめとする様々な組織や個人の皆様をパートナーとする液体民主主義の実装を進めていきます。


  • [1] 「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(パーソル総合研究所, 2020, https://rc.persol-group.co.jp/news/files/news-data.pdf , 2020年4月19日閲覧 )
  • [2] 「緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態について、全国2.5万人規模の調査結果を発表」(パーソル総合研究所, 2020, https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html , 2020年4月19日閲覧)
  • [3]もちろん、Web会議システムの利用などに課題は明確に存在します(ex. 相手の感情を読みにくい)。ただ、一度オンライン化したものを元の形に戻すには、戻すだけの理由が存在しなければなりません。従って、今回のCOVID-19を巡る情勢で導入されたオンラインツールは、ポストコロナの社会においても、その大半が利用され続けることになると考えられるのではないでしょうか。

Author

栗本拓幸

CEO

Chief Officer of Policy Research Div.

1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。「知性ある日本」をテーマに、政治参画、Govtech、統治機構改革などの分野で研究を進めながら、NPO法人Rightsをはじめとする複数の法人で理事他、政策提言、教育現場でのファシリテーターやラジオパーソナリティ、YouTube配信など。公共と市民の関係性、Society5.0が喧伝される中で民主主義の在り方についての問題意識から、液体民主主義の社会実装を試みる合同会社Liquitousを設立。富士通総研・トポス会議他登壇多数。公共コミュニケーション学会 (PRAS) 会員。

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