調査研究

政策企画部門

栗本拓幸

2020/04/13

民主主義に基づいた意思決定プラットフォームの先行事例を探る

VoteIT, LiquidFeedback, Crowdpol

Crowdpol

LiquidFeedback

VoteIT

私たちLiquitousは、「一人ひとりの影響力を発揮することができる社会」を目指して、液体民主主義の社会実装を通した民主主義のDXに取り組んで参ります。私たちLiquitousにあるソフトウェア開発部門では、「液体民主主義」を組織に実装することを可能とするソフトウェアLiqlidの開発に取り組んでいますが、民主主義に基づく意思決定に関わるソフトウェアは、他にどの様なものが存在するのでしょうか。

近年は、Webアプリケーションを用いた業務効率化が進んでいます。チャットソフトの代表例として、例えばSlackやChatwork、Web会議システムとしてはWebExやZoom、Google Hangoutなどが存在します。しかしながら意思決定そのものをサポートする、あるいはソフトウェアを前提とする意思決定の形への変革する様なソフトウェアの出現は、必ずしも多くは見られません。

そこで今回は、海外の3つのソフトウェアVoteIT,Liquidfeedback, Crowdpolを取り上げたいと思います。これらのソフトウェアが出現した背景やその機能を観察し、私たちLiquitousが開発するLiqlidへの示唆を得たいと思います。

VoteIT

VoteITは2009年に開発が始められたオープンソースソフトウェアであり、GitHubからプログラムを無償でダウンロードした後に、独自のサーバーで実行することで、無料で利用することができるソフトウェアです。

VoteITは『オンライン上で民主的で参加型の会議を開催することを助けるためのウェブツール(VoteIT is the web tool to help you host your democratic and participatory meetings online.)』を謳っています。

この開発・運営は、当初は主としてスウェーデンのゲーム連盟(Sverok)とBetahausというプログラミング集団が担っていました。ただ、今日においてはVoteITの管理運営を行うVoteIT協会(Föreningen VoteIT)が設立され、例えば教員組合やスカウト連盟、スウェーデンの国政政党である社会民主党のストックホルム及びヨーテボリ支部、緑の党、青少年赤十字などが加盟して、その運営の一角を担うと共に、それらの組織内部が年次会議など、大規模な会議を行う際にVoteITを活用しています。

スウェーデン遺産基金(Allmänna arvsfonden)が創設時の資金源となった他、現在では、前述のVoteIT協会に加盟する団体から会費を得ることで、その経費が調達されています。

VoteITのスクリーンショットをよく見てみると、左上部に"Agenda” "Polls" "Participants" "Protocol" と書かれたタブが確認できます。これらのタブを遷移することで、順に議題・投票・参加者・要件定義等を確認できます。

https://youtu.be/rF-_ZgHPAcA

VoteITのウェブサイトによれば、VoteITには次の機能が備わっています。

  • スウェーデン法に準拠した形で年次会議を開催するためのデジタルサポート- Digital support for holding annual meetings in agreement with Swedish law
  • 発言者の、(内容の)統計情報や引用箇所などをつけた発言者リスト - Speaker list, with speaker statistics and quotation options
  • 議論、提案、投票の管理 - Handling of discussions, proposals, and votes
  • 議論と申し立て間の繋げるためのタグ - Tags for a link between discussions and claims
  • 自動生成される議題 - Automatically generated agenda
  • 高度な投票方法(シュルツ方式投票、多数決、反対投票、複数投票) - Advanced voting methods (Schultze, majority voting, contra-vote, multiple-vote)
  • 申し立て・議題項目・会議全体のワークフロー:未着手、着手中、終了したものの確認が常に可能。 - Workflows for claims, agenda items, and entire meetings - you constantly see what's left untreated, under treatment, and finished.
  • 発言の長さと出勤管理 - Voice length and attendance control
  • 自動生成されたプロトコル - Automatically generated protocol
  • 自分で拡張して構築できるシステム - A system that can be expanded and built yourself

(英文:https://www.voteit.se/ より:スウェーデン語の原文を英語へ自動翻訳したものを日本語に筆者が訳出しています)

VoteITの開発については、基本的なパッケージをGithubからダウンロードすることができます。尚、開発は、Pythonを用いて行われています。

LiquidFeedback

LiquidFeedbackは、ドイツのInteraktive Demokratie(インタラクティブ民主主義協会)が開発・運営を行うソフトウェアであり、その名称の通り、液体民主主義の概念に基づいて設計が行われているソフトウェアです。Liquid Feedbackは、Jan Behrens, Axel Kistner Andreas Nitsche, Björn Swierczekという4名のエンジニアによって2009年から開発が始められ、2009年〜2011年1月にかけてはドイツ海賊党の内部で、それ以降は、彼らが設立したInteraktive Demokratieにおいて、LiquidFeedbackの開発を進めています[1]。

LiquidFeedbackは、『Decisions made easy.』をテーマに、『公正、堅牢、信頼に足る(Fair, robust, reliable.)』『使用の易しさ(Easy to use.)』『柔軟なセットアップ(Flexible setup.)』を訴求ポイントとして打ち出しています。【*参考動画 https://liquidfeedback.org/video/lf_2017_en.mp4 】

https://youtu.be/Ne4qQE7uw3I

これら3つの訴求ポイントは、

公正、堅牢、信頼に足る(Fair, robust, reliable.)

  • 同等の特権(Equal Privileges)
  • 大人数のグループ(Large Groups)
  • 分業(Division of Labor)
  • 強い透明性(Strong Transparency)
  • 信頼性(Reliability)

使用の易しさ(Easy to use.)

  • 最適なユーザーガイダンス(Optimal user guidance)
  • アイデアをサポートする(Support an idea)
  • 問題に投票する(Vote on an issue)
  • ガイド機能(” What can I do here? ”)

柔軟なセットアップ(Flexible setup.)

  • 地図の統合(Map integration)
  • ケースに対応した使用(Use case adoption)
  • コーポレートアイデンティティとの統合(Corporate Identity)

といったLiquidFeedbackの機能的な特徴に基づくものになっています。LiquidFeedbackの思想や開発に関する詳細な情報は、Interaktive Demokratieが2014年に発行した『The Principles of LiquidFeedback』に記述されています。

少なくとも現在に至るまで、ドイツ海賊党の意思決定に用いられた他、オーストラリアやイタリア、スイスなどの国々に存在する海賊党においても、試験的に導入されました。また、イタリアにおいて急速にその勢力を拡大する五つ星運動(M5S)のロンバルディア州とシチリア州の支部において、M5Sがその大統領候補を選出する際に利用された実績もあります(2013年)。あるいは、ドイツのスローフード連盟などでも使用された実績があります。

また、EUの欧州委員会が出資した全欧州規模の研究開発フレームワークと財政的措置の総称であるHorizon2020プログラムから資金提供をうけたWeGovNowプロジェクト[2]にも、LiquidFeedbackは、相応の貢献をしています。WeGovNowプロジェクトは、『WeGovernmentの実現に向けて:地域の政策課題に取り組むための、共同的で参画的なアプローチ(Towards WeGovernment: Collective and participative approaches for addressing local policy challenges)』をスローガンに、市民や行政、公共領域(パブリックセクター)や民間企業(プライベートセクター)が横断的に地域に存在する政策課題へ対応する為のオンライン・エコシステムを構築することを目指していました。そのエコシステムの中で意思決定の役割を担っていたのが、LiquidFeedbackでした。

LiquidFeedbackについては、フロントエンドの開発がLua、バックエンドの開発がPL/pgSQLで行われており、オープンソース(MITライセンス)となっています[3]。

Crowdpol

これまで紹介したVoteIT、LiquidFeedbackの他にも、Crowdpolというソフトウェアも存在します。このソフトウェアも液体民主主義の概念に基づいて開発が行われていると推測され、2017年ごろから現在に至るまで、断続的に開発が行われています。ただ、その詳細は公開されていない点も多く、現在はWebサイトそのものが公開されていません。

私たちLiquitousからすれば、これらのソフトウェアは液体民主主義の社会実装、ひいては民主主義のDXに長年取り組んでいるものであり、素直に尊敬の念を禁じ得ません。私たちLiquitous政策企画部門としても、これら国外の取り組みに関心を十分に払うと共に、まずは日本国内で液体民主主義の社会実装に取り組んでいきたいと考えています。


  • [1] これは、LiquidFeedbackにおける投票者の身元確認方法に関するドイツ海賊党内での混乱と対立に起因するものだったと推測されます。
  • [2] 2016年2月から2019年1月に至る時限的なプロジェクト。ハイデルベルク大学やロンドン大学、トリノ大学といった研究機関のほか、イタリア・トリノ市、イタリア・サンドナディピアーヴェ市、ロンドン・サザーク特別区といった自治体、FGB財団やLiquidFeedback、infaliaといったIT企業が参画していました。
  • [3] https://www.public-software-group.org/liquid_feedback などで公開

参考文献

Author

栗本拓幸

CEO

Chief Officer of Policy Research Div.

1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。「知性ある日本」をテーマに、政治参画、Govtech、統治機構改革などの分野で研究を進めながら、NPO法人Rightsをはじめとする複数の法人で理事他、政策提言、教育現場でのファシリテーターやラジオパーソナリティ、YouTube配信など。公共と市民の関係性、Society5.0が喧伝される中で民主主義の在り方についての問題意識から、液体民主主義の社会実装を試みる合同会社Liquitousを設立。富士通総研・トポス会議他登壇多数。公共コミュニケーション学会 (PRAS) 会員。

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