オピニオン

政策企画部門

栗本拓幸

2020/04/13

Liquitousが目指す社会

液体民主主義への眼差し

Society5.0

二回路制デモクラシー

民主主義のDX

私たちのチームの名前「Liquitous」は、『リキタス』と発音します。Liquitousは、社会実装を進めていく液体民主主義は"Liquid Democracy"と遍在する(=ひろくあまねく存在すること)ことを示すラテン語由来の語"ubiquitous"を組み合わせた造語です。この社名の由来からもお分かりいただけるかと存じますが、私たちLiquitousが目指すものは「液体民主主義を実装し、社会の様々な場所で液体民主主義に基づいた意思決定が行われる状態」を実現することで、「社会を構成している私たち一人ひとりが(何らかの)意思決定に影響力を発揮することができる」ようにすることです。

Society5.0と呼ばれる時代の到来を目前にして

私がLiquitousチームを立ち上げた背景には、現状の「意思決定」と「テクノロジー」の関係性についての問題意識があります。今般、内閣府をはじめとする中央省庁、あるいは経団連をはじめとする経済団体等が、『Society5.0』時代の到来を盛んに喧伝するようになりつつあります。

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)

Society 5.0とは 内閣府- https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

国家戦略特区を用いた「規制のサンドボックス制度」に代表される様に、世の中の様々な仕組みが変わりつつあることは見過ごすことの出来ない事実でしょう。Society5.0と呼ばれる社会に向けて、世の中で変わりつつある・変わったものの数は明らかに増しています。

何より、(引用した上記の一節においても示されている様に)Society5.0の特徴は、インターネット空間をはじめとするサイバー空間と、私たちの身体が存在するフィジカル空間が、「融合する」点にあると指摘できるでしょう。従来の様に、私たちの身体が存在するフィジカル空間にサイバー技術を実装するといった『フィジカル>サイバー』という構図が『フィジカル=サイバー』という構図に置き換わることこそ、最も注目すべき点であると私は考えています。

Society5.0の到来でも変わることがなさそうなもの

世の中では、様々な枠組みを通して、日々意思決定が積み重ねられています。NPO/NGOをはじめとする非営利組織や、いわゆる社会起業(家)の出現を代表例に多様化する企業、例えば政党や政治団体、あるいは教育に関わる様々な枠組みにおいて、意思決定が繰り返されることで、”仕組み”が機能し、仕組みの機能が連鎖することで社会が維持されています。ただ、前述の通り、Society5.0が到来しようとしているにも関わらず、この意思決定という営みの在り方は、なかなか見直されることがありません。

企業においてはコミュニケーションに係るツール(ex. SlackやChatworkなどのチャットツール、ZoomやSkype fo Businessに代表されるビデオ会議ツール)が導入されたり、テレワークを用いて遠隔地などから業務に参加したりする事例が増加しつつあります。それであっても、意思決定そのものがテクノロジーと融合していくことはなかなか進んでいません。

そして特に、政治・行政の分野においては、そもそもテクノロジーの実装は遅々として進んでいません。勿論、今でこそ全ての国政政党がホームページを開設し、政党や政治家によってはSNSをはじめとする様々なツールを利用する様になっています。しかしながら、政策形成プロセスや政策形成プロセスの周縁部では、様々なテクノロジー・ツールが実装されることはおろか、Society5.0の到来に耐え得るマインドセットを持った方々がその大半を占めているかと問われると、答えに窮さざるを得ない現状があります。

民主主義のDXを:液体民主主義の社会実装を通して

こうした現状を踏まえて、私自身はSociety5.0とその先を見据えた意思決定の形として「液体民主主義」というモデルを社会に部分的に提案・実装することを実現していきたいと考えています。

私たちLiquitousは、欧州のLiquid Democracyを発展させた「液体民主主義」の社会実装を行います。私たちLiquitousの液体民主主義は、単に間接民主主義と直接民主主義の融合を図るのみならず、オフラインとオンライン、組織・個人同士といった様々な枠組みを越えて融合させていきます。これまでは存在せざるを得なかった「みんな」「空気」「一般論」「民意」といった『見做し』を解きほぐし、個人一人ひとりの意思決定プロセスへの参画を前提とした意思決定モデルです。

【合同会社Liquitous】設立のお知らせ - PRtimes.jp (プレスリリース)

プレスリリースでも掲げた通り、液体民主主義という概念は、オンラインのプラットフォームを活用することで、直接民主主義の「構成員一人ひとりが自らの意見・賛否等を意思決定に直接反映することができる」という特徴と、間接民主主義の「政策のプロフェッショナル等に意思決定を代理させる」仕組みを組み合わせた意思決定を可能とするものです。また、意思決定のプロセスをオンラインプラットフォームに落とし込むことで、意思決定プロセスを仕組み化すると同時に、どのような経緯で意思決定が行われたのか、どのような構成員の発言・賛否が意思決定に影響力を与えたのか、”見える化”する試みでもあります。

昨今はDX(デジタル・トランスフォーメーション)が話題となっています。DXは2004年にEric Stolterman教授(スウェーデン・Umeo University)によって提唱された「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念(*1)ですが、2018年12月に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発出(*2)して以降、国内においても加速度的に浸透・展開しつつあります。現在ではその多くは民間企業の事業や行政に関するものでありますが、私自身は、Liquitousを通して民主主義のDXを強力に進めていきたいと考えています。

DXを通して変革された民主主義を「デジタル・デモクラシー」、あるいはデジタルデモクラシーを実現する為のテクノロジーを「DemoTech(デモテック:Democracyと Technologyを組み合わせた造語)」と呼称する例も徐々に増えています。私たちもこの流れと正面から向き合い、その浸透に寄与していきたいと考えています。

目指す世界像

では、「社会の様々な場所で液体民主主義に基づいた意思決定が行われる」とは、具体的にどのような状態を指し示すのでしょうか。

民主主義というと、一般的には政治や行政の領域に限定されたものという印象をお持ちの方が少なくないと思います。言うまでもなく、私たちLiquitousは、現在や行政の領域に液体民主主義を実装していくことは重要なミッションだと考えています。

ドイツの政治哲学者、ユルゲン・ハーバーマスは、著書『事実性と妥当性』の中で、『議会における政治決定(第一の回路)を市民による討議(第二の回路)によって補強する』という二回路制民主主義を提唱しています。あるいは、米国・カリフォルニア州知事・Gavin Newsomなどの実務家や国内外のCivicTech業界によって、テクノロジーを用いることで市民参画が促進するということが一般的に語られています。私たちLiquitousは、第一に、ハーバーマスのいうところの『第二の回路』を生み出すことを目的に、テクノロジーを用いた(政治や行政の領域への)市民参画を押し進めていきます。

加えて、私たちLiquitousは、政治や行政の領域に限らず、ビジネスや教育、非営利活動といった領域に存在する組織においても、液体民主主義という意思決定の仕組みを実装していきたいと考えています。今、社会の様々な場所で「多様であること」が顕在するようになりつつあります。例えば、『働く』ということに焦点を当てると、社会課題解決をミッションとする組織が出現・普遍化しつつあり、従来の垂直的な組織運営の重要性が相対的に低下しつつあります。また、「働く」際に所属する先の組織体も、兼業や複業、起業、社内起業といった手法が一般化するにつれて、従来の「単一の所属先」から「複数の所属先」へと変化しつつあります。これらの事象を踏まえれば、組織ではなく、構成員個人をベースにした組織体の運営への移行が加速することは十分に想定できます。

また、私たちは、生きる中で「みんな」や「総意で」「全会一致」といった”見做し”に遭遇する機会が多くあります。ただ、個人の価値観などが多様化する現代、限定された数の尺度を用いて物事を判断する=見做しを作り出すことに限界が生まれつつあると言っても過言ではありません。換言すれば、多様な視点や価値観を意思決定に入れ込んでいく必要が高まっていると指摘できるでしょう。組織にとっての最適解を個人に落とし込む構図から、個人の最適解の集合体を組織に落とし込む意思決定のスタイルへと変革していく際にも、液体民主主義という意思決定の形がふさわしいと私たちLiquitousは考えています。

液体民主主義が生む副次的な効果

政治・行政という領域、あるいはビジネスや教育、非営利活動といった領域においても、液体民主主義という意思決定のスタイルを導入することで、構成員・周縁部の人間の価値観や思考を意思決定に加えていくことができます。結果、よりしなやかでより創造的な意思決定を生み出します。

そして、オンラインのプラットフォームを基盤とした意思決定だからこそ、意思決定の過程が見える化・保存される他、時間などのコスト短縮にも繋がる可能性がある点も、液体民主主義が持つ優位性と言えるでしょう。

液体民主主義が当たり前の社会へ

私たちLiquitousは、液体民主主義の社会実装を目指して事業展開をして参ります。その為には、私たちが目指す社会が如何なるものか、定期的に言語化しながら、時代や情勢の変化に合わせて変化させていく(アップデート・アジャイル)必要があります。

 本稿は、その初回であり、端緒となるものに過ぎません。私たちが持つ問題意識をきっかけに、これからの世の中の意思決定の在り方のグラウンドデザインを構想することができると、非常に有意義だと存じます。お読み頂いた皆様から忌憚のないご意見を賜ることができますと、大変幸いです。皆様から様々なフィードバックをいただきながら、私たちLiquitousが目指す社会のあり方をより研ぎ澄まし、具現化して参ります。

Author

栗本拓幸

CEO

Chief Officer of Policy Research Div.

1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。「知性ある日本」をテーマに、政治参画、Govtech、統治機構改革などの分野で研究を進めながら、NPO法人Rightsをはじめとする複数の法人で理事他、政策提言、教育現場でのファシリテーターやラジオパーソナリティ、YouTube配信など。公共と市民の関係性、Society5.0が喧伝される中で民主主義の在り方についての問題意識から、液体民主主義の社会実装を試みる合同会社Liquitousを設立。富士通総研・トポス会議他登壇多数。公共コミュニケーション学会 (PRAS) 会員。

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